岐阜新聞 映画部

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父娘の深い情愛と戸惑いを24時間に凝縮した問題提起型映画

2022年03月29日

選ばなかったみち

© BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020

【出演】ハビエル・バルデム、エル・ファニング、ローラ・リニー、サルマ・ハエック
【監督・脚本】サリー・ポッター

エル・ファニングが素晴らしい。拍手を送りたい

若年性認知症になって実人生と想像の区別が付けられない元作家のレオ(ハビエル・バルデム)。線路沿いの安アパートで一人暮らしをしているが、日本の基準で言えば要介護3か4ではないか。全面的な介助もしくは介護が必要な段階だ。その父を近くに住む娘のモリー(エル・ファニング)が献身的に面倒を見ている。

本作は上記の設定を基に、認知症が引き起こす様々な心理面や行動面の症状を捉えながら、父娘の深い情愛と戸惑いを24時間に凝縮した問題提起型映画だ。

現実世界はニューヨーーク。モリーがレオを歯科医院と眼科医院に連れていくことが今日の予定だ。同じ日に大事な仕事のプレゼンがある設定だが普通どちらかズラすだろう。予測のつかない認知症の行動を描こうとするのはわかるが、無理な設定は没入感を妨げてしまう。

レオの頭の中の世界は、故郷メキシコで初恋の人ドロレス(サルマ・ハエック)との逢瀬と、作家生活に行き詰ったときに一人旅をしたギリシャでの若い女性アニとのアバンチュール。

レオの記憶は現実にあったことなのか想像の出来事か曖昧だ。人間の記憶は都合のいいように覚えており、時が経つにつれてバラバラな出来事が一つに集約されて、それが真実だと認識してしまうことはままある。私が真実だと信じていた記憶が、幼馴染との会話で全く違っていたことが何度あったことだろう。

私は(たぶん)若年性認知症ではないと思うので心理面は想像するしかないが、映画は父親の「選ばなかったみち」を想像逞しく暖かく描いている。

役者陣ではハビエル・バルデルの演技も見事だが、エル・ファニングがとにかく素晴らしい。父親に対して感情的にならず冷静に気丈に振る舞う姿、仕事を失った時に鬱屈した感情があふれ叫びだしてしまうがすぐに落ち着きを取り戻す様子。内面まで垣間見られる演技は、この映画のご都合主義的な弱さを十分カバーし支えている。拍手を送りたい。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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