岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

とある1日で切取った6年間の恋愛映画

2022年03月15日

ちょっと思い出しただけ

©2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

【出演】池松壮亮、伊藤沙莉、河合優実、大関れいか、屋敷裕政(ニューヨーク)/尾崎世界観、渋川清彦、松浦祐也、篠原篤、安斉かれん、郭智博、広瀬斗史輝、山﨑将平、細井鼓太、成田凌、市川実和子、高岡早紀、神野三鈴、菅田俊、鈴木慶一、國村隼(友情出演)/永瀬正敏
【監督・脚本】松居大悟

特別なはずなのにそうでもない時間が心地良い

恋愛映画、あるいは青春映画には、確たる分類基準があるわけではない。時代設定も年齢制限もないが、主人公が同年代だったりすれば、その気持ちを理解することも容易だし、場合によっては感情移入ができたりもする。しかし、賞味期限は存在するのかもしれない。毎年、それなりの恋愛映画が公開されて、眩しいやり取りを目の当たりにすると、年齢を超越するなどという理由をつけたり、感性の度合いを持ち出して、無理な整合性で帳尻合わせをしたりする。

例えば、昨年公開された『花束みたいな恋をした』(土井裕泰・監督)は、偶然出会ったふたりの大学生時代からの5年間を描いた "王道" の恋愛映画で、終電を逃してしまうその出会いから、ぎこちない会話が一転、打ち解けていくその刹那を正面切って、どストレートな正攻法で描いている。これは年齢制限もので、観ている最中から居心地の悪さに襲われる。しかし、その感情も一瞬のことで、甘くとも切なくとも痛い、青春模様に不覚にも涙してしまう。開き直りではないが、映画鑑賞に期限などないのである。

これはたまたまのことだと思うのだが、ここのところ、振り返り型の青春映画がいくつか公開されている。勿論、一括りにはできるはずもなく、振り返り型というのは、あくまでも便宜上の分類にすぎない。

『ちょっと思い出しただけ』は、ダンサーの照生(池松壮亮)と、タクシードライバーの葉(伊藤沙莉)の6年を振り返る恋愛映画で、過去への遡りは特定の1日=7月26日に限定された構成をとっている。

既に別れてしまっている照生と葉。それは劇的な出会いや、甘く煌びやかな蜜月の日々や、哀しく切ない別れの時を敢えて描かないことで、題名が示すとおり、"ちょっと思い出した" 時間軸で言えば、極短いスパンでスケッチ風に切取っている。

監督、脚本は松居大悟。これまでの作品で感じた、ハイテンションな熱い人物像は、個人的には苦手だったが、本作では少し引いた視点で、役者の自然体の空気感を醸し出している。エピソードの断点にさりげなく添えた伏線とその回収も巧み。

そして、オマージュとして登場するジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91/日本公開92年)がきっと観たくなる!

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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