岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

きめ細かな心理描写が見ものの傑作

2022年01月13日

パワー・オブ・ザ・ドッグ

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』独占配信中

【出演】ベネディクト・カンバーバッチ、キルステン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディ・スミット=マクフィー、トーマシン・マッケンジー、ジュヌヴィエーヴ・レモン、ピーター・キャロル、アリソン・ブルース、キース・キャラダイン、フランセス・コンロイ
【監督・脚本】ジェーン・カンピオン

男性優位と女性蔑視の感情の揺れ

女性監督ジェーン・カンピオンの久々の映画は舞台劇を思わせるような緻密な心理描写が見どころの秀作だ。1920年代のモンタナ州。男性優位な西部の気質とカウボーイ文化の最前線。ハンサムで優秀な長男とどこか頼りない次男の兄弟が切り盛りする牧場に未亡人が十代の長男を連れ次男の元に嫁いでくる。

主要登場人物はこの4人だが、彼らの心理描写が見事。セリフは多く語らず、それぞれの意識の在り様や感情の流れが手に取るようにわかる脚本が秀逸。決して上手くはないピアノを自宅に招いた地元の政治家の前で弾かせようとする義理の兄。何とか固辞しようとする妻。下手な脚本なら一騒動を起こすアクションとなるだろうが、本作では妻は静かに引き下がる。

行動ではなく、意識のアクションとリアクションの連続。アクションとして目に見えないと画として面白くない、と考えるのは二流監督。カンピオンは重厚な演出による俳優の表情のみで多くを語らせる。新妻の長男は十代後半に差し掛かろうとする年頃だが、西部に馴染まぬ華奢な体躯。医学部を目指す内向的な性格なのだが、家長の長男とは明らかに反りが合わない。気をもむ次男や母親らとの葛藤が最大の見せ場となる。

新シリーズのホームズやマーベル作品から舞台まで幅広く活躍するベネディクト・カンバーバッチの長男、ジェシー・プレモンスの次男、おろおろするばかりの新妻キルステイン・ダンスト皆素晴らしい演技を披露する。久々に重厚な作品を見たという満足感を味わった。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

観てみたい

100%
  • 観たい! (6)
  • 検討する (0)

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

ページトップへ戻る