岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

大林宣彦監督の実験精神が生んだ圧倒的ビジュアル

2018年02月06日

花筐/HANAGATAMI

©唐津映画製作委員会/PSC 2017

【出演】窪塚俊介、満島真之介、長塚圭史、柄本時生、矢作穂香、山崎紘菜、門脇麦、常盤貴子
【監督・脚本】大林宣彦

今が「戦前」になるのではという強い危機感

 商業映画第一作『HOUSE/ハウス』(77)公開から40年。「おもちゃ箱をひっくり返したような」と形容される第一級の映像テクニシャンである大林宣彦監督が、極彩色の画面と、目もくらむ編集、繰り返される音楽で綴った絵巻物は、いささかの衰えも感じさせない鬼気迫る映画となった。どのカットも加工がほどこされ、月はあくまでも黄色く大きく、唐津の海はあくまでも広く美しい。この圧倒的なビジュアルは、実験精神にあふれた大林監督の真骨頂であり、最新のデジタル技術によってさらにパワフルになってきている。
 全くぶれない大林ワールドであるが、ここ2作で明瞭になってきた「戦争は嫌だ」がよりストレートに出てきたのが今作である。映画は太平洋戦争前の「戦前」を描いているが、もしかしたら今が「戦前」になるかもしれないという大林監督の強い危機感が伝わってくる。「反戦」ではなく「厭戦(えんせん)」映画であり、「生きる」意志をも国にコントロールされていた若者たちの、ささやかながらの自由を描く事で、むしろ戦争の残酷さを浮き立たせている。
 大学予科に通う俊彦(窪塚俊介)たちの青春は、煙草を吸い酒を呑み、喧嘩をし傷つけ合い、恋愛もダンスもするし、相手を変えてキスもする。親友の鵜飼(満島真之介)とは、海岸を、裸馬に全裸で乗って走っていく。その馬は徴用された軍用馬で、そのまま解放する。こういった行動で抵抗する他なかった、戦争で死ぬことを半ば強制された若者たちを、美しく儚く慈しむように描いていく。
 終盤にかけての「唐津くんち」の躍動感いっぱいの画面は、造りこまれた映像の中に違和感なく取り込まれ、彩りをそえている。映画で語られるように「おくんち」は、町民の祭であり、権力者に対し人間の誇りと自由を守るために始まった。命がけでやる「おくんち魂」と戦争による強制された「命がけ」。対比はくっきりしている。「命がけ」で作った大林宣彦監督の傑作である。

『花筐/HANAGATAMI』はTOHOシネマズモレラ岐阜ほか、全国で公開中。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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