岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

堕ちた記憶を辿る父と息子の物語

2021年12月23日

フォーリング 50年間の想い出

© 2020 Falling Films Inc. and Achille Productions (Falling) Limited· SCORE © 2020 PERCEVAL PRESS AND PERCEVAL PRESS INC. · A CANADA - UNITED KINGDOM CO-PRODUCTION

【出演】ランス・ヘンリクセン、ヴィゴ・モーテンセン、 ローラ・リニー
【監督】ヴィゴ・モーテンセン

ヴィゴ・モーテンセンの多才と真逆を演じる幅に感嘆する

夜の機内、眠りにつく乗客のなか、ひとりの老人が目覚め、覚束ない足取りで、通路を歩き出す。揺らぎ混濁する意識から逃れるように、老人は声を上げて助けを求める。静かな機内が一瞬ざわつく。それにいち早く気づき、止めに入る息子がいた。

ジョン(ヴィゴ・モーテンセン)は、田舎で農場を営む父親のウィリス(ランス・ヘンリクセン)のことを気にかけている。

親子には深い溝があり、疎遠にならざるを得なかった経緯がある。しかし、ウィリスには認知症の症状が現れるようになり、ひとりでおくことに不安を感じ、農場を手放し、引退させて、近くでで見守りたいと考えるようになっていた。

パイロットを務めるジョンは、ロサンゼルスでパートナーのエリック、養女のモニカと暮らしている。

ウィリスはジョンに同性のパートナーがいることを承知しているが、それを認めない頑な拒絶が存在する。ことある度に、ジョンに向ける侮蔑的な言動を息子は挑発と介している。それにのるなという自戒は、永年の親子の関係から生まれた悲しいルールに見える。

映画はこの親子の50年にわたる年月を回想形式で描いている。

母と暮らしていた暖かく幸せな日々。初めて連れて行ってもらった鴨狩りの思い出。現在と過去を継なぐ、時にはフラッシュバックのような構成は、わだかまりを解して行く過程のぎこちないせめぎ合いに見える。

ジョンを演じるヴィゴ・モーテンセンは、アカデミー作品賞に輝いた『グリーンブック』(ピーター・ファレリー監督/2018年=日本公開19年)での、無骨なイタリア人運転手の好演が記憶に新しい。本作では、監督、脚本、音楽を担当するマルチな才能を見せている。

繰り返された父親の理不尽とも思える行動に些か辟易するが、そこに落ち込んでいる愛のかけらの発見には普遍的な感動が含まれている。フォーリング=落下して行く人の記憶は哀しい。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (10)
  • 検討する (0)

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

ページトップへ戻る