岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ポーランドの鬼才スコリモフスキの出世作

2018年02月05日

早春

© 1971 Maran Films & Kettledrum Productions Inc. All Rights Reserved.

【出演】ジェーン・アッシャー、ジョン・モルダー=ブラウン、ダイアナ・ドース、カール・マイケル・フォーグラー、クリストファー・サンフォード、エリカ・ベール
【監督・脚本】イエジー・スコリモフスキ

46年ぶりにデジタルリマスターで再上映

 2008年、長らく海外で活動していたイエジー・スコリモフスキの『アンナと過ごした4日間』が公開されたとき、ちょっとした事件だった。17年ぶりの監督作だったが、ファンの間では完全に忘れられた監督だったばかりか、すでに亡くなっているとも思われた。ところが祖国ポーランドを舞台にした同作の出来栄えが素晴らしかったことにも驚いたが、その後も『エッセンシャル・キリング』、『イレブン・ミニッツ』と秀作を連発している。
 スコリモフスキは今年80歳になるが、1972年に公開された『早春』がうれしいことにリバイバル上映された。ポーランドの初期の監督作は東京映画祭やその後WOWOWなどでも放送され、また初の外国資本で撮った『出発』も観ることができるが、本作はなぜかビデオやDVD化されることなく、長らく幻の名作扱いとなっていた。
 本作の主人公マイクは15歳。市営プールのサービス係として就職するが、そこで働く魅力的な年上の女性に思いをはせる。1970年代初頭のロンドンは今日のような移民やテロの問題はまだ抱えていない。登場人物はみな白人のロンドン市民。社会は表面的には落ち着いて見えるが、誰もが抱える大人になる過程での滑稽さ、ひた向きさが浮き彫りになる。
 原題のDeep Endは水の深みを意味するが、転じて気が触れてしまうという使われ方もある。主人公はまさに深みにはまってしまう。監督は当時まだ30代になったばかり。外国で映画を作ることのできる喜びに満ち溢れていたのではないか。そんな初期の瑞々しさ、力強さも感じることができる。

『早春』はYEBISU GARDEN CINEMA、名古屋シネマテークほか、全国で公開中。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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