岐阜新聞 映画部

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天空の聖地チベットを、慈しみ讃えるポエムのような映画

2021年12月09日

羊飼いと風船

©2019 Factory Gate Films.All Rights Reserved.

【出演】ソナム・ワンモ、ジンバ、ヤンシクツォ
【監督・脚本】ペマ・ツェテン

白い風船と赤い風船。人口抑制策と輪廻転生。

ヒマラヤ山脈の北側に広がるチベット高原。その東北部に位置するアムド地方は「草原のチベット」と呼ばれ、遊牧を営むチベット族が篤き信仰心のもと、素朴で質素な生活をしている。

そんな朴訥な人たちにも、中国共産党の人口抑制策は例外なく適用され、生活の近代化は伝統や文化にまで影響を与えるようなってきた。

本作は、チベット映画の第一人者ペマ・ツェテン監督が、チベットにおける今日的課題を、牧畜で生計を営むドルカルとタルギュの一家を通して優しく包み込むように描いたポエムのような映画である。

まず象徴的なのは、原題でもある「風船」だ。冒頭のコンドームを膨らませた白い風船と、幕切れで出てくる2つの赤い風船。この風船は一つは割れ、一つは空高く舞って行ってしまう。

それはチベットの風に揺れる祈祷旗「タルチョ」の五色(黄=地、緑=水、赤=火、白=風、青=空)を連想させると共に、人生の儚さや生命の尊さを表しているかのようだ。

タルギュは種羊をオートバイに乗せて運んでいく。かつては馬に乗って大草原の中を疾走していたであろうに、滑稽ではあるが力強さを感じる。

羊は繁殖させ増やしていくために種付けをするのだが、人間はお上のお達しにより制限を設けられる。頭ではわかっているものの、この矛盾は誰も説明してくれない。

チベット仏教は、輪廻転生を信じている。人は死んでも生まれ変わってまたこの世に現れる、魂は生まれ変わりを繰り返すのだと。

劇中で祖父が死んだとき、ドルカルは妊娠する。しかし4人目を出産すれば罰金だ。中国当局の命令に従うのか、チベット仏教の転生を信じて生むのか?

2014年、ダライ・ダマ14世が、輪廻転生制度を「自分の死後は廃止すべき」との見解を示して注目された。中国当局への配慮というよりも、現代に合わせるべきだとしたのだ。

天空の聖地チベットを、慈しみ讃える映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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