岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

見事な音楽映画であり、瑞々しい青春映画。心地よい時間が流れていく

2021年11月22日

にしきたショパン

©2020 Office Hassel

【出演】水田汐音、中村拳司、ルナ・ジャネッティ、泉高弘、野々村亜梨沙、楠部知子、とみずみほ、茂木大輔(友情出演)
【監督・脚本・編集】竹本祥乃

ショパンVSラフマニノフ。才能がある人に言い訳はない

本作は、平日は研究技術員として会社で働くリケジョが監督し、週末だけで作った自主映画である。さらにプロデューサーは、元大手ガス会社の社員で今は喫茶店のオーナー、趣味でオペラ歌手もやっているという映画界とは全く無縁の人。おまけに、兵庫県の西宮北口周辺を舞台にした「ご当地映画」という、私にとっては胡散臭さいっぱいの触れ込みだったが、さにあらず。

見事な音楽映画であり、瑞々しい青春映画である。様々な国際映画祭で賞を取ったのはフロックでも何でもなく、短編映画で腕を磨いた竹本祥乃監督の、制約をものともしない実力の術なのである。

「阪神淡路大震災の記憶を語り継ぐ」、「左手のピアニストを応援する」という2つのテーマは、メッセージが前面に出過ぎず照れくささもなく、素直にスーッと入っていく。

裕福な家庭に生まれ、不器用だがコツコツと努力するタイプの凛子(水田汐音)と、金銭的には恵まれないが、常に一番で作曲までこなす天才肌の鍵太郎(中村拳司)。

幼馴染の2人が切磋琢磨しながらピアノ演奏の技術を競っていく過程を丹念に描いているからこそ、「震災」という理不尽と、「局所性ジストニア」という試練が重いのだ。

この映画で初めて知った「局所性ジストニア」とは、通常ピアノは右手でメロディーを左手でハーモニーを演奏するのだが、主に右手が痙攣などの発作で機能しなくなる障害らしい。 プロでも罹ることがあり、ラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」をはじめ、左手だけで演奏できる曲も3000曲ほどあるそうだ。

凛子のショパンと、鍵太郎のラフマニノフ。華麗なるショパンの名曲の数々と、卓越した技巧が求められるラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。

自主映画にありがちなチープさは一切なく、主演の2人の好演と90分という手頃な上映時間もあいまって、心地よい時間が流れていく。

才能がある人に言い訳はないのである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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