岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

濱口竜介監督の作家性が出た大長編映画

2021年12月21日

ドライブ・マイ・カー

©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

【出演】西島秀俊、三浦透子、霧島れいか/岡田将生
【監督】濱口竜介

観客に解釈を委ねる余白の多い作品

今年のカンヌ映画祭で脚本賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹の同名短編小説を膨らませた濱口竜介監督らしい大長編映画。上映時間は約3時間に及ぶが、観る者の思考を喚起させる描写で決して長くは感じない。

濱口竜介は回想シーンや説明的な台詞を嫌うようだ。余白の多い映画で観客に解釈を委ねる場面が多いので、未読だった原作を読んでみた。原作は回想形式で、主人公(家福)が亡き妻と性的関係にあったと思しき俳優に近づく場面は、彼と専属ドライバー(みさき)の会話で描かれている。しかも、妻と寝ていた相手がどんな男か知りたかった、そして懲らしめてやろうと考えていたという言葉を口にしている。濱口監督は内容を現在進行形に変え、家福のこの言葉も削っている。

また濱口監督は、「ハッピーアワー」でワークショップの場面を時間をかけてじっくりと描いたように、原作にない家福が演出を担当する「ワーニャ伯父さん」の舞台稽古の場面を時間をかけて描いている。普通なら省略して描いてもいいようなシーンを克明に描くことで、家福のプライベートなドラマとシンクロさせる狙いがあるようだ。手話まで入った多言語舞台はとても興味深いが、シンプルで平明な原作を複雑にしてしまった感も否めない。

家福は原作より深く妻の死に傷ついていて、みさきも母親との関係を膨らませて原作以上に心の傷を抱えたキャラクターとして描かれている。それが、北海道でのクライマックスをドラマチックにしているが、個人的には原作の諦観を秘めた素っ気なさの方が好きだ。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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