岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ボスニアで起きた真実を告発した秀作

2021年10月25日

アイダよ、何処へ?

© 2020 Deblokada / coop99 filmproduktion /Digital Cube / N279 / Razor Film / Extreme Emotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte

【出演】ヤスナ・ジュリチッチ、イズディン・バイロヴィッチ
【監督】ヤスミラ・ジュバニッチ

妻=母であるアイダの心情を "個" に完結させないために

1980年、ユーゴスラビアの終身大統領だったチトーが亡くなった。その後の外交を担う大統領職は、共和国、自治州が1年交代の輪番制をとるという合意がなされた。当時は1つの国家ユーゴスラビアには、2つの文字、3つの宗教、4つの言語があり、5つの民族が混在し、6つの共和国が存在していた。そして、7つの国と国境を接していた。

90年、社会主義国の崩壊はユーゴスラビアにも及び、一党独裁であった共産党は分裂し、それ以前から燻り続けていた共和国間の対立は激化する。中央集権の維持派と独立派の決裂は決定的となる。チトーの死により弛んでしまった団結の箍は戻ることはなかった。

翌91年、独立を求めるクロアチアとユーゴ人民軍は戦闘状態になり、世に言うユーゴ内戦が始まる。しかし、クロアチア人はそれを独立戦争と呼ぶ…対立の構図は複雑である。

92年に勃発したボスニア=ヘルツェゴビナ紛争は泥沼化していた。介入した国連は、東部ボスニアに安全地帯を設置していたが、状況は悪化、95年7月11日、セルビア人勢力は国連の警告を無視して侵攻を始める。

『アイダよ、何処へ?』は緊迫するその日に始まる、後に言う "スレブレニツァ事件" を描いた映画である。

オランダ部隊が管理する国連保護軍の施設で通訳として働くボシュニャク人の元教師アイダ(ヤナス・ジュリチッチ)は、仕事も手につかないほどに焦燥していた。セルビア人が攻め込んできた地区にある自宅に暮らす夫と2人の息子は無事だろうか? 施設の周辺に溢れかえる難民となった同胞を見て愕然とするが、アイダは仕事をこなしながらも、家族の安全を図ろうと、決死の画策を試みる。

冒頭に説明したユーゴスラビアの政治的な歴史経緯を知っても、この映画で起きている事態を我々日本人は簡単には理解できない。ただ、家族の命の為、死力を尽くすアイダの心情と、ヤスミラ・ジュバニッチ監督の事実を風化させない意志は同化し強く心に響く。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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