岐阜新聞 映画部

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Meet somewhere

奇想天外でシュールなギャグの連発。10分間の濃密な不条理アニメ

2021年10月07日

頭山

【監督】山村浩二

水に映った自分を眺める自分を眺め・・・無限ループなのだ

第54回CINEX映画塾で上映された山村浩二監督の『頭山』(2002)。

劇場の暗闇の中からベベンベンベンベンベンベンと三味線が鳴り、冒頭一節「あたま~やま~」チョーン、べベン。

とスクリーンに映るアニメーションに合わせ、浪曲師・国本武春の「ケチな男がおりや~した~」との名調子と共に、この不条理なお話がスタートする。ナレーションやセリフ、擬音を含めた一切合切を、映る動画に合わせて一人で語るスタイルは、文楽の義太夫節か無声映画のカツベンのようである。

ペンとカラーマーカーで1枚1枚丁寧に描かれた原画は、輪郭や境界線がはっきりし色や影が単純化された一般的なアニメのセル画とは全く違う、パラパラ漫画みたいな手作り感に満ちている。スケッチブックに描かれた絵が自由に動き出すかの如く、絵本から飛び出したような動画なのだ。

ストーリーは奇想天外でシュールなギャグの連発。元の落語の世界は、聴いてる観客がそれぞれ好き勝手に想像できるが、アニメーションという見える形にした途端、作家のイメージがひとつの答えとして表現される。そこがまた面白い。

「とにかくもったいねえってのが男の口癖だから~」と、サクランボの種まで食べっちゃった男の頭に桜の木が生え、それを目当てに頭の上で花見の大宴会が始まる。

「さすがに男も頭にきた」と、エエイと大木を引っこ抜くと、その穴に水が溜まって池になる。で今度は釣りに泳ぎにとまたまた人が集まる。もうやってらんねえ。

そして水に映った自分を眺める自分を眺め、さらにその自分を眺めるという無限ループに陥った挙句、最後は「男は自分の頭に身を投げて~、死んじまった」。

この短編アニメにはかくも哲学的な命題が内在しており、何度もよく見て考える楽しさがある。

いや待てよ、「人間て不思議な生き物だなあ」とだけ感じればいいのかもしれない。実に濃密な10分間であった。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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