岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

スレブレニッツアの虐殺の映画化

2021年10月25日

アイダよ、何処へ?

© 2020 Deblokada / coop99 filmproduktion /Digital Cube / N279 / Razor Film / Extreme Emotions / Indie Prod / Tordenfilm / TRT / ZDF arte

【出演】ヤスナ・ジュリチッチ、イズディン・バイロヴィッチ
【監督】ヤスミラ・ジュバニッチ

戦後欧州の最大の悲劇

「サラエボの花」(2006)や「サラエボ、希望の街角」(2010)で高い評価を得た女性監督ヤスミラ・ジュバニッチの久々の日本公開作。1995年7月に起こったボスニア紛争中の悲劇、スレブレニツァの虐殺を映画化した。旧ユーゴスラビアが崩壊後、軍を支配していたセルビア人(セルビア正教)は重火器の大半を掌中におさめ軍事的に優位な立場を獲得。一方、この映画では虐殺される側のボシュニャク(ボスニア)人(イスラム教)はほとんど武器を持たず、非武装のまま捨て置かれた。そのため大量虐殺の被害者のほとんどはボシュニャク人という結果を招来。アメリカが介入して同年11月オハイオ州デイトンで平和会議を開催、デイトン協定が結ばれた。

ボスニア紛争はこれまでの戦争の概念からはおよそかけ離れていた、と言われる。戦線などというものはどこにもないし、二つの軍隊が正面からぶつかる会戦もない。恐怖におびえるボシュニャク人、焼けただれた村落、民族的に浄化された集落の累積。ボスニア軍も正規の軍隊出身者は少なく、大半は傭兵や単なる略奪者、愛国の戦士を装うならず者たちだ。

映画では国連の通訳として雇われるアイダが夫や二人の息子を救うため、オランダ人の上司とセルビアの将軍ムラディッチの間に入って孤軍奮闘する様を描く。歴史は修正しようがないが、同じ問題がミャンマーやアフガニスタンで今も起こっていることを想起せざるを得ない。四半世紀以上前の悲劇を通じて現代に多くのものを問いかける秀作だ。2021年ムラディッチは終身刑が確定した。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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