岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

中年の危機とアルコール問題

2021年10月18日

アナザーラウンド

©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.

【出演】マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、マグナス・ミラン、ラース・ランゼ、マリア・ボネヴィー
【監督】トマス・ヴィンターベア

血中濃度0.05%は最適値か

デンマークの俊英トーマス・ヴィンダーベア監督はこれまで社会派とも呼べる骨太の秀作を発表してきたが、本作はどちらかと言えば私的な内容。高校の歴史教師と仲間の教師3人が主人公。彼らはある哲学者の理論であるアルコール血中濃度が0.05%のときが最善という説を実行に移すこととし、平日昼間、授業中にも隠れて飲み始める。やがて0.05%から限界まで挑戦するという名目から飲酒量は増大していき、アル中一歩手前にエスカレート。当然ながら家庭生活は破綻寸前となり、教師としての立場も危うくなる。主人公の妻にこの国の男はアル中ばかり、というニュアンスのセリフがあるが、一定の社会問題として内在しているのだろう。

  主人公(マッツ・ミケルセン)が担当する高校3年生の男子生徒に一週間の平均の酒量を聞くとビール60-80本という驚くべき答えが返ってくる。日本に比べ酒税率が低く価格も高くないとしても驚くべき量だ。映画の冒頭4人での会席の場でミケルセンのみ水のみで通そうとするが、雰囲気に押されウォッカの乾杯に付き合ってしまう。レストラン側も言葉巧みにキャビアや高級ワインを勧める。アルコールの問題はいつの時代にもどこの国にも、また性別や年齢を越えてあると思うが、主人公らが分別ある中年で教師という境遇であることに見入ってしまう。アルコール量が増えるに連れ、いつ事故が起きるかハラハラしてしまう。全体のトーンは暗いが、決して絶望しているのではない。といって人生賛歌と呼べるほど楽観的でもなく、快楽と苦役を味わった者のみが知るほろ苦さを感じる。

ヴィンダーベア監督の近作で潜水艦沈没事故を扱った「コマンド」(2018)と「コミューン」(2016)はいずれも未公開。本作のような出来を見れば、是非どこかで公開してほしい。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

観てみたい

100%
  • 観たい! (8)
  • 検討する (0)

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

ページトップへ戻る