岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品子供はわかってあげない B! 等身大の魅力を完璧にとどめた傑作 2021年09月15日 子供はわかってあげない ©2020 「子供はわかってあげない」製作委員会 ©田島列島/講談社 【出演】上白石萌歌、細田佳央太、千葉雄大、古舘寛治/斉藤由貴/豊川悦司 【監督】沖田修一 これでこそ、沖田修一監督! 沖田修一監督は私が毎度作品を期待している監督である。それも当然、「横道世之介」の監督だからだ。しかし、「横道世之介」をピークに作品のクオリティは総じて高いとは言えなかった。これは私個人の意見ではあるが、監督の持ち味が悪い方向へ作用してしまった印象があった。しかし、今回の「子供はわかってあげない」は違った。とても面白い。これでこそ沖田修一監督である。 本作の冒頭、主人公朔田美波(上白石萌歌)の家庭で起こる夕食時のドタバタが長回しで描かれる。このワンカットで家庭の空気感、家族との距離感が一発で観客に伝わる見事な導入。彼女の父親は義理の父親なのだが、それを感じさせない家庭の描写があるからこそ、後半の実父に会いに行く彼女の後ろめたさに説得力が生まれるのだ。 続いて学校での門司くん(細田佳央太)との出会いが描かれる。好きなアニメで意気投合し、夢中で喋りながら階段を下りていく2人をワンカットで捉えたカメラが見事なこのシーンは2人のキラキラと輝いたひと夏のはじまりを告げるファンファーレだ。門司くんとの恋愛、実父と過ごす数日間。近所の女の子に泳ぎを教えたり、一緒に遊んだり。こんな夏はたった一度きりだとわかるからこその輝きとノスタルジー。加えて十数年ぶりに再会した娘と触れあう実父のふとしたときに見せる切なさと不器用な愛情、そして美波がその想いに気付く複雑な心境に胸が締め付けられる。そうした様々な要素がオフビートな会話でコミカルに温かく綴られる。 そんな本作をさらに素晴らしくしているのはキャラクター造形の見事さだ。真面目な場面でつい笑ってしまう美波。部活の大会で負けて周囲が涙しているときでさえ、一人笑ってしまう。だからこそ、彼女がラストで流す涙の美しさが際立つ。そして門司くんの一直線ながら少しずれた言動、美波の実父が新興宗教の元教祖という際どい設定もリアリティを失うことなくきれいにまとまっているのだ。 そして、上白石萌歌という女優の可愛らしい魅力を完璧なまでにとどめているのがこの映画。等身大の女の子を演じ、その可愛らしさが永遠のものになった映画があることはその女優にとって、観客にとって、そして上白石萌歌という一人の女の子にとって、とても幸せで価値のあることではないだろうか。沖田修一監督はそれができる監督だ。今後の監督作品も期待しながら待ち続けたいと思う。 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 100% 観たい! (9)検討する (0) 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 2023年09月26日 / 君は行く先を知らない 暢気なユーモアが緊張に変わるロードムービー 2023年09月26日 / 君は行く先を知らない シリアスな内容を、ユーモアと詩情で包んだ瑞々しい映画 2023年09月25日 / ふたりのマエストロ 指揮者親子のハートフルコメディ more 2018年10月03日 / シネモンド(石川県) 加賀百万石の城下町から次世代の映像作家を 2018年05月30日 / 名古屋シネマテーク(愛知県) 作り手も観客も映画と真剣に向き合える映画館 2021年06月09日 / 【思い出の映画館】かもめ座(神奈川県) 戦後の港町横浜で湾岸労働者たちに愛された二番館 more
これでこそ、沖田修一監督!
沖田修一監督は私が毎度作品を期待している監督である。それも当然、「横道世之介」の監督だからだ。しかし、「横道世之介」をピークに作品のクオリティは総じて高いとは言えなかった。これは私個人の意見ではあるが、監督の持ち味が悪い方向へ作用してしまった印象があった。しかし、今回の「子供はわかってあげない」は違った。とても面白い。これでこそ沖田修一監督である。
本作の冒頭、主人公朔田美波(上白石萌歌)の家庭で起こる夕食時のドタバタが長回しで描かれる。このワンカットで家庭の空気感、家族との距離感が一発で観客に伝わる見事な導入。彼女の父親は義理の父親なのだが、それを感じさせない家庭の描写があるからこそ、後半の実父に会いに行く彼女の後ろめたさに説得力が生まれるのだ。
続いて学校での門司くん(細田佳央太)との出会いが描かれる。好きなアニメで意気投合し、夢中で喋りながら階段を下りていく2人をワンカットで捉えたカメラが見事なこのシーンは2人のキラキラと輝いたひと夏のはじまりを告げるファンファーレだ。門司くんとの恋愛、実父と過ごす数日間。近所の女の子に泳ぎを教えたり、一緒に遊んだり。こんな夏はたった一度きりだとわかるからこその輝きとノスタルジー。加えて十数年ぶりに再会した娘と触れあう実父のふとしたときに見せる切なさと不器用な愛情、そして美波がその想いに気付く複雑な心境に胸が締め付けられる。そうした様々な要素がオフビートな会話でコミカルに温かく綴られる。
そんな本作をさらに素晴らしくしているのはキャラクター造形の見事さだ。真面目な場面でつい笑ってしまう美波。部活の大会で負けて周囲が涙しているときでさえ、一人笑ってしまう。だからこそ、彼女がラストで流す涙の美しさが際立つ。そして門司くんの一直線ながら少しずれた言動、美波の実父が新興宗教の元教祖という際どい設定もリアリティを失うことなくきれいにまとまっているのだ。
そして、上白石萌歌という女優の可愛らしい魅力を完璧なまでにとどめているのがこの映画。等身大の女の子を演じ、その可愛らしさが永遠のものになった映画があることはその女優にとって、観客にとって、そして上白石萌歌という一人の女の子にとって、とても幸せで価値のあることではないだろうか。沖田修一監督はそれができる監督だ。今後の監督作品も期待しながら待ち続けたいと思う。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。