岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

外国人技能実習制度の闇を描いた、現在進行形の映画

2021年07月27日

海辺の彼女たち

©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

【出演】ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニュー ほか
【監督•脚本•編集】藤元明緒

静謐で緊張感のある画面は、深く鋭く彼女たちの心情に迫っていく

2021年7月20日、熊本地裁が、妊娠を相談できず双子を死産したベトナム人技能実習生(22)に、死体遺棄の有罪判決を下したというニュースが流れた(懲役8か月・執行猶予3年)。

熊本県内の農家で働いていたこの女性は、強制帰国を恐れ妊娠を周囲に明かせず、自室で孤立出産をしたのだ。初産による激しい痛みと死産による心身の疲労は、恐怖と混乱をもたらしたに違いない。この裁判に関して赤ちゃんポストで有名な慈恵病院の蓮田院長は「彼女のどこがどう遺棄なのか?」と強い危機感を示している。

私が『海辺の彼女たち』を観たのは、5月のGW中、名古屋シネマテークでだ。この純粋アート系映画を多くのベトナム人観客と一緒に観たのだが、すすり泣く声や明るくなってからのざわめきが、私の胸の奥に深く刻み込まれた。

映画は手持ちカメラの上、人物に照明を当てない長回しのゲリラ撮影。さらに一切の説明セリフもBGMも無いという親切とは無縁の設定だ。

藤元監督は登場人物への肯定も否定もせず、ただただ彼女たち3人を写し取っていく。結末はなく現在進行形であり、その後の彼女たちの生き様は想像するしかない。

ダルデンヌ兄弟の映画を彷彿とさせるような静謐で緊張感のある画面は、観客の感情移入など拒否するかのように、深く鋭く彼女たちの心情に迫っていく。

外国人技能実習制度が実質的には出稼ぎ労働であり、運営は監理団体まかせ。原則として転職は認められず、労働者としての権利を主張できないどころか、悪質なブローカーがはびこっているのは周知の事実だ。

だが監督はそのことを声高に叫ぶのではなく、ブラック企業から逃れた後の技能実習生の実態を、ドキュメンタリー映画と見紛うかのように淡々と追っていく。

私の職場は名古屋の今池だ。毎日のように通っているコンビニには、ベトナム人の若い子が多く働いている。彼らなくてはもはや成り立たないのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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