岐阜新聞 映画部

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認知症患者の見たまま記憶のままを、疑似体験できる映画

2021年07月19日

ファーザー

© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

【出演】アンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン、マーク・ゲイティス、イモージェン・プーツ、ルーファス・シーウェル、オリヴィア・ウィリアムズ
【監督・脚本・原作】フロリアン・ゼレール

アンソニーに対する長女アンの対応が素晴らしい。見習いたい

私と同居する86歳の母は要介護2で、週4回デイサービスを利用している。ほぼ毎日「はまゆう(デイサービス)は、いつ行くだ?」「だあれも教えてくれん。初めて聞いた」と家族を閉口させる。耳が遠いのもあって、こちらは怒鳴るような声で返事をするか無視するかとなり、イライラするのが正直なところだ。

その点、本作の主人公で認知症の傾向が著しい81歳のアンソニー(アンソニー・ホプキンス)に対する長女アン(オリヴィア・コールマン)の対応は素晴らしい。決して理不尽に怒ったりせず、父親のプライドを保ちつつ冷静に対処していく。見習いたいが、私の様な小さな人間にはなかなか出来ないのだ。

この映画は、ストーリーに身を任せ目の前の事実だけを追って観ていると混乱必至だ。話の辻褄が合わなくなり訳が分からなくなってしまう。

それもそのはず、この映画はアンソニーの視点で描かれているからだ。観客は、認知症患者が見たまま記憶のままを疑似体験しているのだ。画期的な視点である。

物語的真実を整理してみると、主な登場人物は、父・アンソニー、長女・アン、彼女の二度目の夫ポール(ルーファス・シーウェル)、ヘルパーのローラ(イモージェン・プーツ)、介護施設の医師(マーク・ゲイティス)、施設の介護士(オリヴィア・ウィリアムズ)。登場しないが、アンの前夫ジェームズと、幼い頃に事故死した次女のルーシー。

アンソニーの住居は、自己所有のフラットからアンのフラットに一時的に移り、最後は介護施設。

アンがポールと共にパリに移り住むので、アンソニーを介護施設に入れるという筋だ。

アンソニーは施設の医師や介護士を、アンやポール、ジェームズと混同し混乱する。昔の記憶は鮮明なため、あたかもルーシーが生きているかのように語り出す。

緻密に練られたシナリオと、アンソニー・ホプキンスのリアリティ溢れる名演で、認知症映画の傑作となった。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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