岐阜新聞 映画部

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ホン・サンスの術中にはまってしまう、観て考える映画

2021年07月15日

逃げた女

© 2019 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved

【出演】キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ、キム・セビョク、イ・ユンミ、クォン・ヘヒョ、シン・ソクホ、ハ・ソングク
【監督・脚本・編集・音楽】ホン・サンス

「愛する人とは一緒にいるべきだ」、ガミの持論にどう答える?

韓国映画の隆盛は、90年代末に金大中政権が実施した検閲の廃止や反共縛りからの解放に端を発する。

そんな変革の時代、新しい風が噴き出した韓国映画界に台頭してきたのが「386世代(1990年代に30代で、1980年代の民主化運動に関わった、1960年代生まれの者)」の監督たちだ。

キム・ギドク(1960生『嘆きのピエタ』)、カン・ジェギュ(1962生『シュリ』)、パク・チャヌク(1963生『JSA』)、ポン・ジュノ(1969生『パラサイト 半地下の家族』)などと共に、世代を代表する監督の一人が本作のホン・サンス(1960生)だ。

彼は、韓国のロメール、ゴダール、ウディ・アレンなどと呼ばれているが、私からすればその誰でもなく、独自のスタイルを貫く韓国のくせ者監督というのが相応しい。

まず『逃げた女』という意味深なタイトルからしてホン・サンスの術中にはまっている。「誰が何から逃げるのか?」というテーマを最初から与えられるのだ。

ストーリーはいたってシンプル。結婚して5年目で初めて夫から離れて過ごすことになったガミ(毎度おなじみのキム・ミニ)が、ソウル郊外に住む3人の友人を尋ね歩くというもの。

バツイチでルームメイトと暮らすヨンスン、既婚者と恋愛中のスヨン、学生時代に男を取り合ったウジン。ガミはその都度「愛する人とは一緒にいるべきだ」と持論を展開する。

この繰り返される問いかけに、3人の女性がそれぞれ別の反応をする中で、ガミの心中が徐々にあらわになっていくのが垣間見え大変面白い。

映画はホン・サンスらしい会話劇で、不穏なことが起こりそうな予兆が提示されたり、様々な仕掛けが散りばめられているが、伏線を回収せずスルーされていくのはいつもと同じ。基本ワンシーンワンカットで、謎のズームアップや奇妙なパンも相変わらずだ。

観て考えることが好きな人にはうってつけの映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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