岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

本音と謎が交錯する不思議な会話劇

2021年07月15日

逃げた女

© 2019 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved

【出演】キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ、キム・セビョク、イ・ユンミ、クォン・ヘヒョ、シン・ソクホ、ハ・ソングク
【監督・脚本・編集・音楽】ホン・サンス

日常の断片は人それぞれに違って見える

『逃げた女』は主人公の女性が、旧知の友だちを訪ねて再会し、そこで交わされる会話を中心に展開する映画である。

韓国・ソウル郊外の住宅街。ガミ(キム・ミニ)がとある集合住宅の前で、訪問先のヨンスン(ソ・ヨンファ)と、ばったり出会す。

バツイチのヨンスンは、料理上手の同居人の女性と暮らしている。会話は近況報告やたわいのないものに見える。そこには監視カメラで繋がる世間があり、玄関先でタバコを喫う女性とのささやかな交流や、猫の餌やりに苦情を言ってくるご近所さんをさりげなくかわす強かさが見えたりするが、他人に踏み込むことはない。

スヨン(ソン・ソンミ)は、気軽な独身生活をしている先輩。最近の恋バナや、窓から見える風景についての蘊蓄。ストーカー男の突然の訪問。ここでの会話や出会いも平穏さを維持する。

ガミは会話の中で、5年間の結婚生活ではじめてのひとり旅であることを強調する。旅と言うには憚れるもので、ガミが言う通り、はじめて夫の元を離れたというのがトピックなのだろう。

ガミの夫は「愛する人とは何があっても一緒にいるべきだ」という信念があるらしい。今回は夫の出張で発生した夫婦の空白の時間を利用したのだと言うが、夫の不在が気になる。

3人目はミニシアターを運営するウジン(キム・セビョク)だが、この再会には偶然を装った作為が見え隠れする。2人の間には何かあるのか?

ホン・サンス監督は1960年生まれ。アメリカで美術を学んだ後、1996年『豚が井戸に落ちた日』(日本公開97年)で映画監督デビューしている。早くから独自の世界観を展開し、特にヨーロッパを中心に高い評価を獲得している。その作風は、よくエリック・ロメールと比較されるように、会話劇を主軸にした日常を描いたドラマが多い。

本作も謎に満ちた会話からは、様々な憶測が浮かび上がる。"逃げた女"は誰なのか?引きで見るか、ズームで見るか、消化不良のままか?

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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