岐阜新聞 映画部

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最期をどう生きるか、そしていつ死ぬかを問うた終活映画

2021年06月22日

やすらぎの森

© 2019 - les films insiders inc. - une filiale des films OUTSIDERS inc.

アンドレ・ラシャペル、ジルベール・スィコット、レミー・ジラール
監督・脚本:ルイーズ・アルシャンボー

人の人生に深入りせず、認め合い・協力しながら生きていく

カナダの森林面積は、ロシア・ブラジルに続き世界第3位である。国旗は赤白赤の縦縞で、中央に赤色のカエデの葉が鎮座している。カナダにおける森は、あたかもカナダそのもののようだ。

カナダの平均寿命は、北南米大陸では一番長い82.2歳(2019年調)。一方で定年制は廃止されたものの、平均退職年齢は62歳。65歳から年金が支給されるが、人生最後の20年をどう過ごしていくのかは万国共通の課題だ。

『やすらぎの森』は、ほぼ平均年齢まで生きてきた老人たちが、最期をどう生きるか、そしていつ死ぬかを問うた、人間の尊厳に関する終活映画である。

深い森に囲まれた湖の岸で暮らす3人の男性老人。カナダの名優たちが演ずるチャーリー(ジルベール・スィコット)、トム(レミー・ジラール)、テッド(ケネス・ウェルシュ)は、みんな白髪で白い顎髭を生やしている。まるで仙人だが、さすがに外界と繋がってはいる。

この老人たちが、湖で無邪気に入浴がてらの水浴びをするシーン。生まれたままの姿は大自然と一体化しているようで微笑ましい。

みんな孤立無援を選んではおらず、独立した小屋に住むなど適度な距離をとりつつも緩やかに繋がっているのは、どこかで人との温もりを求めているのかもしれない。

彼らは自ら外界との関りを遮断したのだが、このコミュニティーの一員となるジェルトレード(アンドレ・ラシャペル)は、60年以上も精神科療養所に入れられ外界から遮断されてきた。物語は彼女の登場により、それぞれの過去があぶり出され始める。

この映画が素晴らしいのは、みんな重い過去や厳しい現実を背負ってはいるが、人の人生に深入りすることはせず、認め合い・協力し合いながら生きていくのを肯定しているところだ。

かつてあった大規模な森林火災では、焼けた鳥たちが空から無数に落ちてきた。映画で問われる尊厳死。生きる意味と死生観を描いた映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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