岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

父の最期の日々に向き合う兄妹の再会と出会い

2021年06月16日

海辺の家族たち

© AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016

【出演】アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイラン、ジャック・ブーデ、アナイス・ドゥムースティエ、ロバンソン・ステヴナン
【監督・脚本】ロベール・ゲディギャン

直面する老いと燻る恋心と生きる希望と 美しき人間讃歌

フランス・マルセイユ、美しい入り江には白壁の家々が、なだらかな斜面に並ぶ。谷間には城壁のような鉄道橋が村への入り口を示すようにそびえ立つ。

そのひとつの家の主人らしき老いた男が、突然の体調不良に見舞われ、海を望むベランダの椅子で身動きできなくなる。不穏な予感に包まれたオープニング。

『海辺の家族たち』は、故郷に集う家族のひと時を描く映画で、ひとりひとりが問題を抱えてはいるが、よくある避暑地のリゾートの華やいだ雰囲気とは無縁の、黄昏た雰囲気が色濃く漂う。

パリに暮らす人気女優のアンジェル(マリアンヌ・アスカリッド)は、父親が倒れたという知らせを受け、20年ぶりに故郷であるマルセイユ近郊の海辺の町に帰って来る。それを迎えるのは、家業のレストランを継いだ長兄のアルマン(ジェラール・メイラン)と下の兄ジョゼフ(ジャン=ピエール・ダルッサン)だった。

かつてはリゾート地として賑わっていた町には、今やその面影はなく、そこに住う人々の老いと同様に侘しく鄙びていた。細々と経営を続けるアルマンには諦念の感情が色濃い。若い恋人との関係に危うさを予感するジョゼフは、前に進むことよりも、父との最期の日々を見守り立ち止るという選択が、自分のとる道だと悟る。アンジェルが故郷と疎遠になっていた理由とは…。

行違いとわだかまりを抱えた兄妹の関係は、町の顔見知りの人々を交えて展開する。

少しの色恋沙汰や感情の昂ぶりは見えるが、物語はあくまでも大人のお話になる。そこにスパイスのような刺激を与えるのが、難民として入り江に流れ着いた子どもたちとの遭遇である。

震えたまま握った手を離そうとしない兄弟。気丈に弟たちを守ろうとする姉の姿に、老いた兄妹が忘れてしまっていた命の輝きを見つける。

穏やかな入り江の先に広がる美しい海のような、希望に満ちた暗示が優しさへ誘ってくれる秀作である。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (10)
  • 検討する (0)

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

ページトップへ戻る