岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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理不尽な現代日本を描く石井裕也入魂の傑作

2021年06月07日

茜色に焼かれる

©2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ

【出演】尾野真千子、和田庵、片山友希 / オダギリジョー、永瀬正敏
【監督・脚本・編集】石井裕也

尾野真千子と片山友希の心震える演技に感動

今年は、才能豊かな映画監督が、自身の最高傑作又はそれに準ずる作品を次々と発表する日本映画大豊作の年である。西川美和の「すばらしき世界」、藤井道人の「ヤクザと家族」、今泉力哉の「街の上で」、前田弘二の「まともじゃないのは君も一緒」、吉田大八の「騙し絵の牙」。そして、この石井裕也の「茜色に焼かれる」も、間違いなく代表作のひとつになるであろう傑作です。

コロナ禍の現代を舞台に、次々と理不尽な出来事に苛まれるシングルマザーを描いた「茜色に焼かれる」は、石井監督の魂の叫びとも言える入魂の一作。

弱い者がとことんないがしろにされる現代日本社会。法律も社会のルールも、本当の正義を守るものになっていない。納得のいかないことにとことん妥協しない正義感と自尊心、偽りのない純粋な気持ちや優しさの持ち主であるヒロイン良子は幾度も踏みつけにされる。彼女が何度も口にする「まぁ、がんばりましょう。」は、くじけそうになる自分を自ら鼓舞しているかのようだ。

彼女が働く風俗店の同僚ケイも、幼い頃から悲惨な人生を歩んできた女子。良子とケイが、振り絞るように身の上話をするシーンは心震える。

しかし、この映画は決して絶望を描いた作品ではない。ふたりと良子の13歳になる健気な息子の存在自体が、救いであり希望として描かれている。こんな社会でひどい仕打ちにあっても、助け合いながら自分に正直に生きている彼らの姿に胸が熱くなる。

良子役の尾野真千子が素晴らしい。演技を超えて、まさに役を生きるという表現が相応しい。また、ケイ役の片山友希も彼女に負けないほど素晴らしい。ふたりの女性の誇りを失わない生き様は、深く心に刻まれる。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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