岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

大不況と大砂嵐の中、銀行強盗犯と少年は楽園を目指して逃亡する

2021年05月24日

ドリームランド

©2018 DREAMLAND NM,LLC

【出演】フィン・コール、マーゴット・ロビー、トラビス・フィメル、ギャレット・ヘドランド
【監督】マイルズ・ジョリス=ペイラフィット

カッコいい悪者であり、憎めない犯罪者だ

本作の舞台は、世界恐慌で深刻な不況にあった1930年代のテキサス。アメリカ中部の大平原(グレートプレーンズ)では、生産性を追求した農業による環境を無視した開墾が限界まで行われていた。

その結果、自生していた多年草が除去され表土が天日にさらされるようになると「ダストボウル」と呼ばれる大規模な砂嵐が頻発するようになり、農作物は全滅。多くの農民が土地を追われることとなり、カリフォルニアなどを目指す難民が大量発生した。

当時の放浪農民の絶望や気概は、小説や映画の『怒りの葡萄』とかウディ・ガスリーの歌などで知ることができる。

第一次大戦後の閉塞感や行き詰まり感が強かった時代に、銀行強盗をやらざるを得なくなった手負いの強盗犯アリソン(マーゴット・ロビー)と、そんな彼女にフロンティア精神を見出し実の父がいるというメキシコを目指す17歳の少年ユージン(フィン・コール)。

映画マニアだったら多くの人が引き合いに出すであろう『俺たちに明日はない(原題:ボニーとクライド)』も、ベトナム戦争が泥沼化していた1967年の公開で、アメリカ的正義が揺らいでいた時代だ。

今の世の中も、格差の固定化や不寛容な思考など時代が行き詰まっていることは明らかで、犯罪性はともかくとしても、この2人の気持ちや行動に共感してしまう自分がいる。

アリソンとユージンが目指していた楽園は太陽の地メキシコ。現状を打破するために南へ向かう気持ちはわかるが、私たちはメキシコが楽園でないこと、希望の先にあるのは失望であることを知っている。だからこそ、この2人の逃亡は悲劇的であるのだ。

この映画が上手いのは、物語をユージンの妹フィービー(ダービー・キャンプ)の語りとしている点だ。彼女は見ていたわけでなく、知っていただけ。ほとんどは頭の中で想像し、半ば神話化した話。だからこそカッコいい悪者であり、憎めない犯罪者になるのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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