岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品街の上で B! とにかくリアルな恋愛群像劇の傑作 2021年05月11日 街の上で ©「街の上で」フィルムパートナーズ 【出演】若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、成田凌(友情出演) 【監督】今泉力哉 表に出したくないような感情がしっかり映っている コンスタントに質の高い作品を放ち続けている監督がいる。それは今泉力哉監督。昨年も「mellow メロウ」、「his」という素晴らしい作品を発表し、今年公開の「あの頃。」も面白かった。そして今年2本目の公開作である「街の上で」は今泉作品の中でもトップクラスの出来だと私は思っている。もともと昨年の公開予定が新型コロナによって1年延期されていた本作であるが、1年越しに鑑賞した映画は私の期待を遥かに上回る完成度を持ってスクリーンに登場した。 物語は冒頭、古着屋店員の荒川青(若葉竜也)が恋人の雪(穂志もえか)に別れを告げられるシーンから動き出す。そしてそこに絡む雪を含めた4人の女性たち。古書店の冬子(古川琴音)、自主映画監督の町子(萩原みのり)、自主映画スタッフの城定イハ(中田青渚)。彼女たちとのエピソードがほんの少しだけ交錯する絶妙な脚本の完成度は圧巻だ。各キャラクターを等価に描きながらもダイジェストっぽくならずにまとまったこの素晴らしさたるや。 そして、各キャラクターにまつわるエピソードがまたリアルなこと。理屈に合わなくても、誰かを傷つけても止められない気持ちや寂しさがある。カッコよさなんて欠片もないけどそれが人間なのだと真正面から描き出すのだ。私たちがあまり表に出したくないような感情がこの映画にはしっかり映っている。 その感情をさらにリアルにしているのがカメラワークと編集だ。延々と続くセリフのやり取りを長回しで捉えたカメラはまさにその空間に観客も同席しているかのように錯覚させる。そして今泉監督自らが編集をおこなったことで生まれる独自のリズム感。カットの切り替わりや間のとり方が独特のアンニュイ感を生み出している。監督自ら編集するのは「愛がなんだ」以来。だから本作は完全なる“今泉力哉の映画”なのだ。 さらに本作の魅力を語る上で絶対に外せないのは何といってもキャストの凄さ。冴えない主人公を演じた若葉竜也の醸し出す雰囲気と本当に魅力的な4人の女優。長回しの多い本作においてキャストの良さは作品の質に直結するわけだが、それぞれが各キャラクターをしっかりと演じ、4人が見事に際立っていた。個人的にお気に入りのキャラクターは城定イハ。快活な感じも好みで、リアルな恋愛トークも印象的だ。なんて、お気に入りのキャラクターを見つけてみるのもまた面白い。 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 100% 観たい! (3)検討する (0) 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 2024年09月26日 / どら平太 日本映画黄金時代を彷彿とさせる盛りだくさんの時代劇 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 助けを求める人はもはや敵ではなく、ただの人間だ 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 海の男たちが下す決断を描くヒューマンドラマ more 2023年03月22日 / 渋谷TOEI(東京都) 東映初の直営館が69年の歴史に幕を下ろす。 2024年08月28日 / サツゲキ(北海道) 市民から愛された劇場が4つのミニシアターで復活。 2022年07月13日 / 吉祥寺オデヲン(東京都) いつも住みたい街に選ばれる吉祥寺駅前にある街のシンボル more
表に出したくないような感情がしっかり映っている
コンスタントに質の高い作品を放ち続けている監督がいる。それは今泉力哉監督。昨年も「mellow メロウ」、「his」という素晴らしい作品を発表し、今年公開の「あの頃。」も面白かった。そして今年2本目の公開作である「街の上で」は今泉作品の中でもトップクラスの出来だと私は思っている。もともと昨年の公開予定が新型コロナによって1年延期されていた本作であるが、1年越しに鑑賞した映画は私の期待を遥かに上回る完成度を持ってスクリーンに登場した。
物語は冒頭、古着屋店員の荒川青(若葉竜也)が恋人の雪(穂志もえか)に別れを告げられるシーンから動き出す。そしてそこに絡む雪を含めた4人の女性たち。古書店の冬子(古川琴音)、自主映画監督の町子(萩原みのり)、自主映画スタッフの城定イハ(中田青渚)。彼女たちとのエピソードがほんの少しだけ交錯する絶妙な脚本の完成度は圧巻だ。各キャラクターを等価に描きながらもダイジェストっぽくならずにまとまったこの素晴らしさたるや。
そして、各キャラクターにまつわるエピソードがまたリアルなこと。理屈に合わなくても、誰かを傷つけても止められない気持ちや寂しさがある。カッコよさなんて欠片もないけどそれが人間なのだと真正面から描き出すのだ。私たちがあまり表に出したくないような感情がこの映画にはしっかり映っている。
その感情をさらにリアルにしているのがカメラワークと編集だ。延々と続くセリフのやり取りを長回しで捉えたカメラはまさにその空間に観客も同席しているかのように錯覚させる。そして今泉監督自らが編集をおこなったことで生まれる独自のリズム感。カットの切り替わりや間のとり方が独特のアンニュイ感を生み出している。監督自ら編集するのは「愛がなんだ」以来。だから本作は完全なる“今泉力哉の映画”なのだ。
さらに本作の魅力を語る上で絶対に外せないのは何といってもキャストの凄さ。冴えない主人公を演じた若葉竜也の醸し出す雰囲気と本当に魅力的な4人の女優。長回しの多い本作においてキャストの良さは作品の質に直結するわけだが、それぞれが各キャラクターをしっかりと演じ、4人が見事に際立っていた。個人的にお気に入りのキャラクターは城定イハ。快活な感じも好みで、リアルな恋愛トークも印象的だ。なんて、お気に入りのキャラクターを見つけてみるのもまた面白い。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。