岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

今泉力哉監督作品《その4》

2021年04月27日

街の上で

©「街の上で」フィルムパートナーズ

【出演】若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、成田凌(友情出演)
【監督】今泉力哉

台詞を忘れさせる会話がつくりだす絶妙な空間

新宿から小田急小田原線に乗って6駅目で下北沢に着く。列車によっては通過する駅もあるから、ほんの数駅という感覚しかない。初めて下北沢駅に降り立ったのは、40年近く前のことだ。

古着屋に勤める荒川青(若菜竜也)には、時々立ち寄る古本屋があり、ちょっと"お久"になってしまう飲み屋がある。

彼女から別れ話を切り出され激しく動揺したり、でも日常は古着屋の丁場に座り、ぼんやり読書をしながら店番をしている。

『街の上で』の舞台となる街は下北沢で、昔とは少し様子の変わった駅前や、あの頃と変わらない"ザ・スズナリ"が登場し、行った記憶はなくても、通ったかもしれない路地が映る。

雪(穂志もえか)からは、好きな人ができたから別れたいと切り出され、狼狽える青。

古書店の冬子(古川琴音)には、成り行きとはいえ、余計な一言を言ってしまい後悔する青。

古着屋の客・町子(萩原みのり)からは、自主映画の出演を依頼される青。

映画のスタッフ・イハ(中田青渚)からは、打ち上げの2次会を抜け出して部屋に誘われる青。

この4人の女性の他にも、クセのある個性的な下北沢の住民が登場する。エピソードは切り取れば寸劇コントに見えなくもないが、これは共同脚本の漫画家・大橋裕之の影響だろう。一変して、2人の会話を長回しでじっくりと見せる今泉力哉演出らしいシーンもある。驚くのは、この両面で交わされる会話が、台詞である事を忘れさせることだ。この共同作業は秀抜。

特に、城定イハと青が、ぎこちなさから、次第に意気投合する部屋での会話の定点観測は圧巻。

また、登場人物が路上で四方からかち合い、繰り広げられる修羅場(?)は、細やかなコメディセンスに溢れているのに、凄みがすら漂わせる会話=台詞の妙が素晴らしい。

下北沢の何となく懐かしい街の、意外なほどに狭い空間に生きている人たちの人間模様。喜劇でもなく、青春映画とも限定できない、今泉力哉映画がそこにある。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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