岐阜新聞 映画部

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白石和彌監督の人間愛の奥深さを感じる傑作

2018年01月13日

彼女がその名を知らない鳥たち

©2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

【出演】 蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう、竹野内豊
【監督】白石和彌

映画は親切に答えなど教えてくれない

 身勝手で自己中なクレーマー女・十和子(蒼井優)と、不潔で卑屈なストーカー男・陣治(阿部サダヲ)の壮絶な愛の物語。サラサラヘアーの王子様風イケメンと、妄想系純情女子が、未来と現代で交錯するキラキラ瞳の恋愛映画とは正反対。宣伝文句通り、不快感いっぱいの恋愛映画である。しかし、不快な映画ではない。人間誰しもがカッコよくスマートに生きているわけではない。むしろ、ぶざまでカッコ悪く不器用な生き方しかできない人の方が多いかもしれない。この映画を見ていると、世間からの鼻つまみ者、出来損ないの人間をこよなく愛する白石監督の人間愛を、随所で感じられる。見た目とは違う、心の底の真実をつかみ取ろうとした演出は、私のココロにズンズン響いてくる。途中やり切れないほどの痛みを伴うが、ラストに向けての自己犠牲による愛の発露は、神々しささえ感ずる。
 十和子は、嘘つきでカッコつけな暴力男・黒崎(竹野内豊)と軽薄で不誠実な不倫野郎・水島(松坂桃李)に身体を許す。黒崎からはリベンジポルノを撮られ、老人には身体を授けさせられ、挙句に凄い暴力を振るわれて別れたのに、何故未だに理想的な彼氏なのか?その黒崎に似ている水島に、何故また惚れてしまうのか?…イケメンだからか?SEXがうまいのか?甘いトークに酔ってしまうのか?あるいは、本当に惚れているのか?何かから逃げているのか?一方で、罵詈雑言を浴びせられる陣治であるが、何故あんなにされてまで尽くしているのか?…疑問はいくらでも湧いてくる。映画は親切に答えなど教えてくれない。
 ミステリー仕立ての展開で段々と真実を知ることになるのだが、愛情の奥深さを現したこの映画のタイトルとも繋がるラストの素晴らしさは、涙なしでは語れない名場面となっている。蒼井優の好演もピカリとひかる傑作である。

『彼女がその名を知らない鳥たち』は全国で絶賛公開中、岐阜CINEXでは1/13(土)より公開予定。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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