岐阜新聞 映画部

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多感な少女の「ひと夏の経験」。一生の中で最も大切な時間だ

2021年04月12日

夏時間

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【出演】チェ・ジョンウン、パク・スンジュン、ヤン・フンジュ、パク・ヒョニョン、 キム・サンドン
【監督・脚本】ユン・ダンビ

西陽さす茶の間で、裸足でくつろぐ家族。昭和の風が吹いている。

 風にそよぐ草木、西陽さす茶の間、真っ赤なスイカ、足踏み式ミシン、裸足でくつろぐ家族。『夏時間』を観ていたら、私がお盆に過ごした昭和30年代後半から40年代前半の「おばあさんの家」を思い出した。韓国の、日本と何ら変わらない生活様式には、文化の近似性を感じ親近感がわいてくる。

 1990年、日本の年号で言えば”平成”生まれのユン・ダンビ監督。韓国も高度経済成長による土地開発や新自由主義による競争社会の中で、失われたモノが多いのだろう。若い監督が自分の生まれる前の時代に憧憬の念を抱くのも、わかる気がする。

 父ビョンギ(ヤン・フンジュ)の事業の失敗のため、10代の少女オクジュ(チェ・ジョンウン)と弟ドンジュ(パク・スンジュン)の親子3人は、夏休みの間に仁川の祖父ヨンムク(キム・サンドン)の家に引っ越してくる。

 まず私の目を引いたのは、この家族の顔立ちだ。みんな一重の目をしており、失礼だが決して美男美女ではない。整形などしていない純朴さがある。この配役がいい。

 そして母親の不在。日本でもそうだが韓国でも家父長制の名残りから、子育ては母親の役割とされている家庭が多い。おじいさんの家にすぐに馴染む弟に比べ、違和感が消えないオクジュの心の中には、家を出ていったオンマ(お母さん)に対する複雑な感情があるのだろう。

 ひとつ屋根の下に住むことになった離婚寸前の叔母さんミジョン(パク・ヒョニョン)の存在も強烈だ。彼女は決して、甥や姪の母親代わりなんかにはならず、女性としての存在感が際立つ。

 役柄は、ユン・ダンヒ監督が影響を受けたという小津安二郎作品で言えば、祖父は笠智衆で、叔母さんは杉村春子という感じだ。

 この多感な少女の「ひと夏の経験」は、彼女の一生の中で最も大切な時間となるであろう。偽ブランドスニーカーを彼氏に渡す恥じらいも含め、瑞々しくも懐かしく、思い出にひたりたい映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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