岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

西部をさすらう現代のカウボーイ

2021年04月07日

ノマドランド

© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

【出演】フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、スワンキー、ボブ・ウェルズ
【監督・脚色・編集】クロエ・ジャオ

ノマドに追い込んだのは自分自身か社会か

 監督のクロエ・ジャオはまだ長編デビュー間もないが、本作では全編すぐれたタッチでリアリズムを貫き、完成度も高い。主演のフランシス・マクドーマンドとデビッド・ストラザーンを除けば残りは全員素人というか本物のノマドの人たちのよう。従って変に演出は付けず、素のまま演じさせているが、ドキュメンタリーのような作風が本作の全編を漂う思想と主張に良くマッチしている。

 根底には、登場人物たちを流浪の民に追い込んだのは社会のシステムに欠陥があるのでは、という問いかけがあると感じる。主人公らは年金や社会保障など公的支援を一切受けず、RV車やキャンピングカーで暮らす。気ままな暮らしに一見見えるが、米国西部の気候はあまりに厳しい。真冬の北部ではろくな暖房なしに、氷点下数十度の寒さに耐えなければならない。

   マクドーマンド演じる主人公のファーンは、冒頭の字幕でネヴァダの炭鉱の企業城下町が閉鎖になったため社宅を失い、RV車での生活を余儀なくされたと説明される。季節労働者のようにアマゾンの巨大な倉庫や国立公園の管理事務所などで一時的に雇用されるが、身分は不安定だ。

  本作を見て感じたのはアニエス・ヴァルダの「冬の旅」(1985)との類似。主人公はあくまで孤独に耐えながら自分の意志を貫く。全編を流れる思想というか、生き方に共通点を感じた。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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