岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

アメリカの今をあぶり出し、新しい生き方を見出せる傑作

2021年04月07日

ノマドランド

© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

【出演】フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、スワンキー、ボブ・ウェルズ
【監督・脚色・編集】クロエ・ジャオ

ノマドの別れの挨拶にサヨナラはない、また会おうだ。

 本作は、車で転々としながら季節労働に従事する「ワーキャンパー」と呼ばれる車上生活者を描いた映画だ。格差社会が生んだアメリカの知られざる社会問題だが、決して告発的でもなく絶望的でもない。

 前半は、主人公ファーン(フランシス・マクドーマンド)が現代のノマド(遊牧民)となり、様々なワーキャンパーたちと交流するシーンが中心だ。

 彼らが語る孤独感や喪失感はズシリと重いが、みんな過去に囚われず前を向いて生きている。現在の境遇を不幸と思わず、広大な大自然の中を馬やラクダで移動しながら生活したノマドのように、アメリカの大地を車で駆け回る。

 冬はAMAZONの物流センターで、夏はキャンプ場の管理で、秋は収穫で、かつてのカウボーイのように働く。キャンプファイヤーでみんなと語らい、困ったときは助け合う。

 ファーンは知人の娘に「ホームレスじゃない。ハウスレスになっただけ」と答える。物質的な家屋は無くなったかもしれないが、ホーム=心の故郷は無くなってなんかいないのだ。

 後半は、いつしか慣れてきたノマド生活と、家の生活との対比だ。車上生活から息子の家に帰ったデイヴ(デヴィッド・ストラザーン)からの求婚、妹夫婦の家にあった大きなベッド。でもファーンはそれを選ばない。

 彼女は必要最低限のものだけ、夫や両親の思い出のものだけを持ってノマド生活をしていたが、倉庫へしまっておいた物を処分してしまう。物質的なものに縛られない生活を選んだのだ。所有の時代から解放されたのだ。

 ラストの象徴的な言葉、「ノマドの別れの挨拶にサヨナラはない、また会おうだ。」

 映画は新しい生活様式に幸せを見つけると共に、車上生活できるのはほとんどが白人であることも示す。黒人はいつ襲われるかもしれず、ノマド生活をする自由がないことが想像できる。これも現実。

 アメリカの今をあぶり出すと共に、新しい生き方を見出せる傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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