岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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昭和史の闇に浮かび上がるヤクザものたちの群像劇

2021年03月31日

無頼

©2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム

【出演】松本利夫(EXILE)、柳ゆり菜、中村達也、ラサール石井、小木茂光、木下ほうか、升毅
【監督・脚本】井筒和幸

あの頃、自分は何をしていたのかが甦る

 敗戦後、10年。親の愛情からは遠く離れた、見捨てられた子どもたちが、生きる術を自ら探し出す。食べるためには手段の選択などない。朽ちかけた家の屋根の金属板を剥がし売り払う。カツアゲに売血やヒロポンが散らつく。貧困の子どもたちが拾い上げられ、身を寄せるのは無法者たちの集団。

 『無頼』は昭和30年代にはじまる。政治、経済、風俗を背景に、世間という地べたを蟻のように這いずり回るヤクザたちの生き様を描いている。無法に暴力的な行為は常に官憲の監視の目とのせめぎ合いになる。しのぎに、這い上がるために、手段は選ばない。権力には容赦なく、はぐれものたちは刑務所と娑婆との行き来を繰り返す。

 チンピラからいっぱしの組長にのし上がる井藤正治(松本利夫)の視点を中心にしているが、登場する人群れは多岐にわたる。ひとりに感情移入できる隙もなく、その手の人物は登場しないから、些か、人間関係の整理に面食らう。エピソードの進行も、散文的であっけないくらいに切り取られ、フェイドアウトの暗闇に分断される。時の背景は事件の新聞報道やニュース映像がさりげなく添えられる。生活の場である街の再現は、映画館などの風俗や、巨大な携帯電話といった小道具で示される。

 昭和史という時の流れを、ヤクザものたちの生き様のもとに描くという試みには、野心的な意図が含まれていると理解できる。

 ヤクザたちの権力争いの長い抗争の日々、血生臭い描写には、深作欣二監督の『仁義なき戦い』や『北陸代理戦争』、『ゴッドファーザー』(フランシス・コッポラ監督)へのオマージュが散りばめられ、それに政治や思想までも絡める。モデルにしたと思われる人物も、事件の流れも単一ではない。複雑な構造には力業と繊細な苦心の跡が感じられる。

 残念なのは、群像劇にしたが故に、人物の個の掘り下げ方が浅くなってしまったことだ。それが試みの後遺症であるのは皮肉な結果だ。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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