岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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不条理劇のように笑えない喜劇

2021年03月02日

天国にちがいない

©2019 RECTANGLE PRODUCTIONS - PALLAS FILM - POSSIBLES MEDIA II - ZEYNO FILM - ZDF - TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

【出演】エリア・スレイマン、タリク・コプティ、アリ・スリマン、ガエル・ガルシア・ベルナル
【監督・脚本】エリア・スレイマン

スレイマン監督はパレスチナ系ユダヤ人で日常を生きてはいない

 "シュルレアレズム"は、リアリズムの反対、現実離れした奇抜で幻想的な芸術と解釈されがちだが、本来は無意識の探求という、シンプルな芸術表現だった。

 "不条理劇"は、登場人物の行動とその結果、あるいはその存在そのものが、原因があり結果があるという法則から外れた、曖昧なものとして描かれる演劇やパフォーマンスのことを言う。

 『天国にちがいない』は、緊張という環境下で生きる世界中の人々が置かれた、いたって平凡な日常を描いているーこれはこ監督、脚本、主演であるエリア・スレイマンの言葉である。

 スレイマンは1960年イスラエル領ナザレ生まれの、パレスチナ系イスラエル人である。この複雑な出自のとおり、パレスチナという不条理な国の持つ意味を、アイデンティティーにまつわる個人的かつ人間的に集約したテーマとして作品に反映させる。

 ある日、ナザレにて…自宅で寛ぐスレイマンは、庭のレモンの木の果実をもぎ取ろうとしている男を目撃する。男は言う「隣人よ泥棒とは思うな…」。また、ある日、日常の散歩で出くわすのは、物騒な男たちの逃走?や、パトカーのサイレンや、レストランの客がウェイターに向けたクレイムの怒鳴り声の喧騒である。

 パリでは…華やかなお洒落な街が、一夜にして、戒厳令下のような空疎な街に変貌している。路上に倒れているホームレスを目撃し、大きなトランクケースを引きずる日本人観光客に声をかけられ、地下鉄では威圧的な男に無意味に凄まれる。映画会社では新作の企画が「パレスチナ色が弱い」とあっさり断られる。

 ニューヨークでは…タクシーの運転手に初めてパレスチナ人に出会ったことを大袈裟に喜ばれる。街の住民は疑心暗鬼にかられ、誰もが銃を持っている。公園に出没した天使を追いかける警官たち。

 バスター・キートンのように無表情に、スレイマンが見つめ描く喜劇的な世界を、パレスチナを、観客はどう受け止めるか⁉︎

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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