岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品無頼 B! 井筒監督が昭和の裏面史を描いた、剛速球のアウトロー映画 2021年02月03日 無頼 ©2020「無頼」製作委員会/チッチオフィルム 【出演】松本利夫(EXILE)、柳ゆり菜、中村達也、ラサール石井、小木茂光、木下ほうか、升毅 【監督・脚本】井筒和幸 「もはや戦後ではない」から始まる、アブレ者たちの戦後 戦中、少年兵に志願したり学童疎開を経験した昭和ヒトケタ世代。彼らを主役にしたのが『仁義なき戦い』(深作欣二監督=昭和5年生まれ)だ。戦後価値観がひっくり返った世の中で、既成の権威や価値観を全否定し、ギラギラしたヤクザの目を通して描いた昭和の裏面史映画である。 そして本作は、次のククリである焼け跡世代(昭和10年~21年生まれ)の昭和裏面史だ。監督は井筒和幸さん(昭和27年生まれ)。団塊の世代(昭和22~24年生まれ)が暴れまわった全共闘時代のあと、その焼け跡に呆然としたしらけ世代の監督である。 昭和31年、14歳の井藤正治は、世の中が「もはや戦後ではない」と高度経済成長に向かっていく中で、取り残されていったアブレ者たちだ。彼らは社会の底辺を支える労働者として生きていく他なかったが、一部の人間はアウトロー・やくざの世界に身を投じていく。 主役の正治(松本利夫)は、ヤクザ三兄弟の三男。井筒監督がオマージュを捧げる、というか自らも自虐的に認める、『ゴッドファーザー』をパクった設定で、アル・パチーノの役である。 ただ決定的に違うのは、『ゴッドファーザー』のファミリーが血縁で結びついているのに対して、『無頼』で描かれるやくざは疑似家族である点だ。親子盃や兄弟盃で結びついている。 映画は、昭和史を彩る様々なイベントや事件に加え、走っている自動車、貼ってある映画のポスター、着ている服など細部にまでこだわりを見せている。さらに映画のモデルになった組長が、映画と同じシチュエーションで殺されたという伝説の映画『北陸代理戦争』を再現しているシークエンスなど、映画マニア的にも垂涎のシーンが目白押しだ。 少なくとも今よりも、猥雑でハチャメチャでバイタリティーのあった欲望の昭和時代。彼らの生きざま、死にざまを見て、現代を生きる我々のヒントとする。井筒監督が描いた剛速球のアウトロー映画だ。 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 100% 観たい! (12)検討する (0) 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 2024年09月26日 / どら平太 日本映画黄金時代を彷彿とさせる盛りだくさんの時代劇 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 助けを求める人はもはや敵ではなく、ただの人間だ 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 海の男たちが下す決断を描くヒューマンドラマ more 2021年08月25日 / 【思い出の映画館】浅草東映/東映パラス(東京都) 浅草六区映画街で映画を観た後の楽しみ 2021年07月15日 / 【思い出の映画館】姫路大劇シネマ(兵庫県) キングコングがビルを登りUFOが襲来する壁面が名物 2024年09月11日 / 【思い出の映画館】シネマライズ(東京都) 渋谷系サブカル世代に新しい映画の魅力を提供した。 more
「もはや戦後ではない」から始まる、アブレ者たちの戦後
戦中、少年兵に志願したり学童疎開を経験した昭和ヒトケタ世代。彼らを主役にしたのが『仁義なき戦い』(深作欣二監督=昭和5年生まれ)だ。戦後価値観がひっくり返った世の中で、既成の権威や価値観を全否定し、ギラギラしたヤクザの目を通して描いた昭和の裏面史映画である。
そして本作は、次のククリである焼け跡世代(昭和10年~21年生まれ)の昭和裏面史だ。監督は井筒和幸さん(昭和27年生まれ)。団塊の世代(昭和22~24年生まれ)が暴れまわった全共闘時代のあと、その焼け跡に呆然としたしらけ世代の監督である。
昭和31年、14歳の井藤正治は、世の中が「もはや戦後ではない」と高度経済成長に向かっていく中で、取り残されていったアブレ者たちだ。彼らは社会の底辺を支える労働者として生きていく他なかったが、一部の人間はアウトロー・やくざの世界に身を投じていく。
主役の正治(松本利夫)は、ヤクザ三兄弟の三男。井筒監督がオマージュを捧げる、というか自らも自虐的に認める、『ゴッドファーザー』をパクった設定で、アル・パチーノの役である。
ただ決定的に違うのは、『ゴッドファーザー』のファミリーが血縁で結びついているのに対して、『無頼』で描かれるやくざは疑似家族である点だ。親子盃や兄弟盃で結びついている。
映画は、昭和史を彩る様々なイベントや事件に加え、走っている自動車、貼ってある映画のポスター、着ている服など細部にまでこだわりを見せている。さらに映画のモデルになった組長が、映画と同じシチュエーションで殺されたという伝説の映画『北陸代理戦争』を再現しているシークエンスなど、映画マニア的にも垂涎のシーンが目白押しだ。
少なくとも今よりも、猥雑でハチャメチャでバイタリティーのあった欲望の昭和時代。彼らの生きざま、死にざまを見て、現代を生きる我々のヒントとする。井筒監督が描いた剛速球のアウトロー映画だ。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。