君のためなら行動できる 純愛の行方は…

　詩人とは…ウィキペディア検索によれば「詩を書き、それを発表する者。または、そのことを職業としている者」…それに続く注では、「詩作だけで生活している人はほとんどいない」となり、多くの場合、評論、随筆、翻訳、小説、音楽、絵画、彫刻などの、他の分野での創作と並行して活動を行なっている…となる。この定義はかなり厳しい。日本の文学界でも、詩作が盛んであった時代には、小説家を中心とした芸術家が詩を発表していたという印象がある。近年、ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランは、シンガーソングライターの詩人である。

　テッキ(ヤン・イクチュン)は、かつて詩で受賞する評価を得たが、それでは食ってはいけず、妻のガンスン(チョン・ヘジン)に養ってもらっている。加えて、詩作はスランプが続いていた。妻からの圧力は尋常ではないが、夫婦はそれでも上手くやっている。最大の懸案を除いては…それは、ガンスンが子どもを望み、テッキに男としての役割を果たせと強要して来る事だった。

　ある日、夫婦が暮らす済州島の港町にお洒落なドーナツ店かオープンする。

　『詩人の恋』は、この売れない詩人テッキの"初めての恋"を描いている。

　乏精子症と診断され落ち込み、詩の同人の集まりでは新作を酷評され、テッキは日がな一日ドーナツ店の片隅に見つけた居場所で燻っていた。ある日、そのトイレで目撃してしまう。ドーナツ店で働くセユン(チョン・ガラム)が、女性客から受ける愛撫に浮かべる恍惚の表情を…。この時、テッキは、妻との関係では無縁だった性的な興奮を得る。こともあろうに同性の青年に…。これは、三島由紀夫の「仮面の告白」で"私"が、年上の同級生・近江の腋窩の体毛に瞑目する衝撃。あるいは、『ペイン・アンド・グローリー』で、幼いアルモドバル監督が、若い職人の裸体に魅せられて失神する様と同様であろう。

　テッキの衝撃は純愛に変わる。それは無償の愛に近く、セユンへの想いはあまりに切ない。故に、幕切れで代償の対価を受け取るセユンの一言は本心と受け止めたい。韓国映画の成熟はBLでも示された。