岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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縁と血縁を描き分けた、優れた家族映画

2021年01月13日

朝が来る

©2020『朝が来る』Film Partners

【出演】永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子、佐藤令旺、田中偉登、中島ひろ子、平原テツ、駒井蓮、利重剛
【監督・脚本】河瀨直美

ドキュメンタリー性とエンタメ性を両立させた、いつもの河瀬ワールド

 痛ましい乳児遺棄。トイレ等で出産した赤ちゃんを放置し死なせてしまう事件だが、出産が女性にしか出来ないことを考えれば、決して彼女たちを責められない。選択肢は「産むか、産まないか」ではなく「産めない」。「孤立出産」という孤独は、彼女たちを途方に暮れさせているのだ。

 今から40年以上前のテレビドラマ「3年B組金八先生」第1シリーズ。6回をかけて描かれた「15歳の母」は、中学生が妊娠・出産するというセンセーショナルな問題がテーマだったが、当時でも決して珍しい話ではなかったらしい。

 本作は、産みの母と育ての母、2人の母を持った朝斗君の気持ちに寄り添いながら、縁と血縁を描きわけた、優れた家族映画である。

 映画の前半は、不妊治療をしても、どうしても子どもを授からない栗原清和(井浦新)・佐都子(永作博美)夫妻が、「特別養子縁組」制度を知り、子どもを迎え入れ、幸せな家庭を築いている様子が丁寧に演出されている。育ての親のパートだ。

 大きなトラブルもなく平和に暮らしていた栗原家に、実母と名乗る女性が突如やってくる。「子どもを返すか金をくれ。さもなければ朝斗や周りに養子のことをばらす」。2人の女性が対峙する。映画最大のヤマ場だ。

 後半は、厳しめの両親に育てられた中学3年生・片倉ひかり(蒔田彩珠)が妊娠し、特別養子縁組を支援する「ベビーバトン」で出産。子どもから引き離され、荒れた心になっていっていく様子が丹念に描かれる。産みの親のパートだ。

 河瀨直美監督の作品は国際的に高く評価されているが、私にとっては観客の事を考えない独り善がりの作風と映り、苦手な監督であった。しかし本作は説明過多にならない程度にわかりやすく、それでいてドキュメンタリー性とエンタメ性を両立させた、いつもの河瀬ワールドになっている。

 河瀬監督も養子縁組で養父母に育てられたとのこと。両親に捧げる映画かもしれない。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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