岐阜新聞 映画部

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ソ連のスター声優夫婦の、可笑しくも悲しき人生模様

2021年01月14日

声優夫婦の甘くない生活

【出演】ウラジミール・フリードマン マリア・ベルキン
【監督・脚本】エフゲニー・ルーマン

カーク・ダグラスの声は、ヴィクトルの吹き替えに限る

 私が中高生の頃に放映されていた「刑事コロンボ」は、「うちのカミさんがね」の決まり文句と、小池朝雄の声が強烈だった。主演のピーター・フォークの地声を初めて聞いたのは『名探偵登場』。その声質の違和感は半端なく、やっぱりコロンボの声は小池朝雄じゃなきゃと思ったものだ。

 本作は、ソ連でスター声優であったヴィクトル(ウラジミール・フリードマン)・ラヤ(マリア・ベルキン)夫妻が、民営化により若手主体となったソ連声優界に見切りをつけ、新天地イスラエルに移ってはきたものの、ゼロからの出発で悪戦苦闘するというアキ・カウリスマキばりのコメディだ。

 先に移民してきた友人がヴィクトルに、「ソ連で見た『スパルタカス』は大傑作だったけど、イスラエルでオリジナル版を見たら駄作だった」と言う可笑しさ。カーク・ダグラスよりヴィクトルの方がいいわけだ。私のコロンボと同じである。

 キャリアが一切通用しない声優夫婦。割り切りの早い妻ラヤが選択したのは、得意の声色を使ったテレホンSEXのオペレーター。相手の性癖を瞬時に読み取り、巧みに声を使い分けるのが馬鹿に可笑しい。

 一方夫ヴィクトルは声優の呪縛からなかなか離れられず、選んだ仕事は海賊版DVDのためのロシア語吹き替え。日本の映画館では「NO MORE 映画泥棒!」のCMが必ず流れるが、実際に映画の盗撮を行っているシーンは初めてみた。ヤバすぎる。

 最初の吹き替え映画上映が、館主ご要望の『ホーム・アローン』路線でなく、ヴィクトルこだわりのフェリーニ監督『ボイス・オブ・ムーン』!というのも、映画マニア的には嬉しい。

 内容は、夫婦が何度か危機を迎えながらも、最後はお互いを認め合うまでを描くハートウォーミングストーリー。笑いが押し付けがましくないのがいい。

 ところで夫妻のイスラエルの住居にある訳の分からないスイッチ。ヴィクトルに押してみてほしかった。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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