岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ポートレートに浮かぶ情念とつつしみ

2021年01月06日

燃ゆる女の肖像

© Lilies Films.

【出演】ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイラミ、ヴァレリア・ゴリノ
【監督・脚本】セリーヌ・シアマ

深い陰影のカメラと静謐さ溢れる画面

 フランスの女性監督セリーヌ・シアマによる本作は今年度屈指の秀作と呼んでも過言ではない。18世紀後半のノルマンディーの片田舎の孤島。肖像画を依頼された女性画家は姉が自殺したとされる妹の見合い用のポートレートを仕上げるため島に渡る。女性の職業として画家が世間に認められなかった時代、依頼主の期待に応えるためにも期限内に仕上げようと努力するもののモデルである女性からは出来映えを拒絶されてしまう。この映画で音楽が使用されるのはわずか3か所。舞台となるのは暗い室内と曇天が続く孤島の海岸だ。主要な登場人物も画家、モデル、依頼主、小間使いの4人のみ。前半はセリフもほとんどない。

 ジャック・リヴェットの「美しき諍い女」(1991)のようにセリフは極端にそぎ落とされ、画家とモデルの対峙を刻一刻とカメラは捉える。撮影監督クレア・マトンの深い陰影の絵作りが見事だ。余計な音楽がないのもいい。後半、画家の夢想と思われるショットが何度か挿入されるが、ここは評価が分かれるところだろう。画家の主観が強調されすぎ、効果は疑問だ。

 ギリシア神話のオルフェウスにまつわる挿話が効果的。オルフェウスの妻が毒蛇にかまれて死んだとき、妻を取り戻すため冥界に入るが、そこから抜け出すために振り返ってはいけないという掟を破ったオルフェウスは二度と妻に会えなかったというエピソードだ。画家とモデルの二人の間で激しい感情が芽生えたとき、最後の別れで振り返ってしまうのかどうか、振り返るのはどちらか。シンプルな物語に深みを与えている。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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