岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品おらおらでひとりいぐも B! 75歳ひとり暮らし 桃子さんの進化の物語 2021年01月07日 おらおらでひとりいぐも © 2020 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会 【出演】田中裕子、蒼井優、東出昌大、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎 【監督・脚本】沖田修一 おおぜいの自分を受け入れて賑やかな孤独を生きること 芥川賞は作家への登竜門となる新人賞的な性格が強いが、そこに年齢制限はない。今月20日に164回の歴史を重ねる同賞だが、受賞者は19歳から75歳という年齢幅がある。 『おらおらでひとりいぐも』は、その芥川賞を63歳で受賞した、若竹千佐子の同名小説を原作にしている。芥川賞の最高齢受賞者は「abさんご」(第148回)の黒田夏子で75歳だが、若竹は2番目の高齢受賞者になる。近年の高齢化が芥川賞にも反映されているという程の、顕著な傾向ではないものの、作家を志すことに年齢は関係ないということ示すには足りる結果かもしれない。 若竹千佐子は55歳で夫を亡くし、主婦業の傍ら執筆を続けて作家デビューを果たした人である。 75歳の桃子(田中裕子)さんは、最愛の夫に先立たれ、ひとり暮らしに沈んでいる。図書館へ本を借りに行ったり、病院通いが外出の機会だが、他は自宅で孤独に浸る日々が続いていた。手慰みに始めたのは、図書館で借りた図鑑を参考に、"46億年の歴史ノート"を作ることだった。 しかし、ある日、"心の声=寂しさたち"が、桃子さんの周りに湧き上がってくる。同じ格好をした3つの物体は、どう見てもおっさんトリオだが、桃子さんの問いかけに「おらだば、おめだ!」と答える。ならば、それを受け入れるしかない。 20歳の桃子(蒼井優)さんは1964年、故郷を飛び出して上京し、食堂に勤め、そこで出会った客の周造(東出昌大)と恋に落ち結婚し、子どもを育て、これからふたりでのんびりとした老後を満喫しようとしていた矢先、突然、周造を亡くした。このどうしょうもない孤独な現実と、幸せに満ちていた過去が回想として描かれる。ピカピカの笑顔の恋する桃子さんは可愛いし、周造は暖かく優しい。喪失は桃子さんから笑顔を奪い、隙間を埋めるのはむさ苦しい心の声たちだった。 沖田修一監督の持ち味である独特な間が、ほっこりとした空気感を生みだしているし、内なる不安や寂しさから外へ出ようというメッセージは、シニア世代には身に染みる。ただ、奇想天外さに戸惑うと置いてけぼりを食うかも? 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 100% 観たい! (9)検討する (0) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2024年09月26日 / どら平太 日本映画黄金時代を彷彿とさせる盛りだくさんの時代劇 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 助けを求める人はもはや敵ではなく、ただの人間だ 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 海の男たちが下す決断を描くヒューマンドラマ more 2021年10月27日 / 【思い出の映画館】西尾劇場(愛知県) 愛知県郊外の映画館でギュウギュウ詰めで映画を楽しむ。 2020年02月05日 / 福知山シネマ(京都府) 城下町にある映画館は幅広い年代から支持されている 2024年08月28日 / サツゲキ(北海道) 市民から愛された劇場が4つのミニシアターで復活。 more
おおぜいの自分を受け入れて賑やかな孤独を生きること
芥川賞は作家への登竜門となる新人賞的な性格が強いが、そこに年齢制限はない。今月20日に164回の歴史を重ねる同賞だが、受賞者は19歳から75歳という年齢幅がある。
『おらおらでひとりいぐも』は、その芥川賞を63歳で受賞した、若竹千佐子の同名小説を原作にしている。芥川賞の最高齢受賞者は「abさんご」(第148回)の黒田夏子で75歳だが、若竹は2番目の高齢受賞者になる。近年の高齢化が芥川賞にも反映されているという程の、顕著な傾向ではないものの、作家を志すことに年齢は関係ないということ示すには足りる結果かもしれない。
若竹千佐子は55歳で夫を亡くし、主婦業の傍ら執筆を続けて作家デビューを果たした人である。
75歳の桃子(田中裕子)さんは、最愛の夫に先立たれ、ひとり暮らしに沈んでいる。図書館へ本を借りに行ったり、病院通いが外出の機会だが、他は自宅で孤独に浸る日々が続いていた。手慰みに始めたのは、図書館で借りた図鑑を参考に、"46億年の歴史ノート"を作ることだった。
しかし、ある日、"心の声=寂しさたち"が、桃子さんの周りに湧き上がってくる。同じ格好をした3つの物体は、どう見てもおっさんトリオだが、桃子さんの問いかけに「おらだば、おめだ!」と答える。ならば、それを受け入れるしかない。
20歳の桃子(蒼井優)さんは1964年、故郷を飛び出して上京し、食堂に勤め、そこで出会った客の周造(東出昌大)と恋に落ち結婚し、子どもを育て、これからふたりでのんびりとした老後を満喫しようとしていた矢先、突然、周造を亡くした。このどうしょうもない孤独な現実と、幸せに満ちていた過去が回想として描かれる。ピカピカの笑顔の恋する桃子さんは可愛いし、周造は暖かく優しい。喪失は桃子さんから笑顔を奪い、隙間を埋めるのはむさ苦しい心の声たちだった。
沖田修一監督の持ち味である独特な間が、ほっこりとした空気感を生みだしているし、内なる不安や寂しさから外へ出ようというメッセージは、シニア世代には身に染みる。ただ、奇想天外さに戸惑うと置いてけぼりを食うかも?
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。