岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品ヒトラーに盗られたうさぎ B! 子どもの目を通して、差別の愚かしさを描いた秀作 2020年12月25日 ヒトラーに盗られたうさぎ © 2019, Sommerhaus Filmproduktion GmbH, La Siala Entertainment GmbH, NextFilm Filmproduktion GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH 【出演】リーヴァ・クリマロフスキ、オリヴァー・マスッチ、カーラ・ジュリ 【監督】カロリーヌ・リンク 桃色のうさぎのぬいぐるみは、心の中で永遠に存在する 第一次大戦で敗北したドイツは、ヴェルサイユ条約(1919年)により、仏英などの戦勝国に対し1320億金マルク(GNP20年分)という天文学的数字の賠償金を支払うこととなった。到底困難な賠償額は、ドイツに経済的苦境と不満をもたらしていた。 それに呼応し1920年に結成されたナチス党は、ヴェルサイユ体制打破とドイツ民族至上主義・ユダヤ人排斥を掲げ次第に国民の支持を広げていき、1930年代前半には国会の第二党となるまでに至った。 映画はそんな情勢の中の1933年2月、ベルリンに住むユダヤ人で演劇評論家のアルトゥア・ケンパー(オリヴァー・マスッチ)が、11月の総選挙までにナチス党の独裁となると予想し、一家でドイツを離れるところから始まる。 アルトゥアは、絵本作家のジュディス・カーの父アルフレッド・カーがモデルで、彼女の自伝的小説を基にしている。ネットで調べたら、アルフレッドはかの「三文オペラ」の大劇作家ブレヒトと敵対していたとのこと。劇中で「あいつなんか会いたくもない」というのは案外ブレヒトのことかもしれない。 ジュディスをモデルにした9歳のアンナを演ずるのは、リーヴァ・クリマロフスキちゃん。可愛い事このうえない。ナチスから逃げるようにして、家族と一緒にスイス・フランス・イギリスと移り住む。大好きなお手伝いさんや、仲良しの友達、段々狭くなっていくけど楽しい我が家。そして何より大切にしてきたけど泣く泣く置いてきた「桃色のうさぎのぬいぐるみ」。その都度別れは寂しいけど前を向いて生きていく姿が、なんともいじらしい。 いつも対等に話してくれるお父さん。「何かやりたいことがあるのであれば、他人のためではなく、自分のことをやりなさい。」というアドバイスが素敵だ。 ヘイトスピーチが公然と行われる現在、子どもの目を通して差別の愚かしさを描き、歴史を繰り返さないよう静かに訴えた秀作だ。 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 100% 観たい! (9)検討する (0) 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 2023年12月04日 / おしょりん メガネ作りを地域産業にした挑戦と情熱の物語 2023年12月04日 / おしょりん 増永兄弟の艱難辛苦のサクセスストーリー 2023年11月29日 / 私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰? 権力と闘う信念の女性の生き様で描く政治映画 more 2021年06月23日 / 【思い出の映画館】シアターホームラン(埼玉県) 小江戸・川越で映画の灯を守り続けた老舗劇場 2021年10月13日 / 【思い出の映画館】千日前セントラル(大阪府) 戦後の活気ある商店街でアメリカ映画を送り続けた。 2022年02月09日 / 岩波ホール(東京都) エキプ・ド・シネマの想い出に感謝を込めて。 more
桃色のうさぎのぬいぐるみは、心の中で永遠に存在する
第一次大戦で敗北したドイツは、ヴェルサイユ条約(1919年)により、仏英などの戦勝国に対し1320億金マルク(GNP20年分)という天文学的数字の賠償金を支払うこととなった。到底困難な賠償額は、ドイツに経済的苦境と不満をもたらしていた。
それに呼応し1920年に結成されたナチス党は、ヴェルサイユ体制打破とドイツ民族至上主義・ユダヤ人排斥を掲げ次第に国民の支持を広げていき、1930年代前半には国会の第二党となるまでに至った。
映画はそんな情勢の中の1933年2月、ベルリンに住むユダヤ人で演劇評論家のアルトゥア・ケンパー(オリヴァー・マスッチ)が、11月の総選挙までにナチス党の独裁となると予想し、一家でドイツを離れるところから始まる。
アルトゥアは、絵本作家のジュディス・カーの父アルフレッド・カーがモデルで、彼女の自伝的小説を基にしている。ネットで調べたら、アルフレッドはかの「三文オペラ」の大劇作家ブレヒトと敵対していたとのこと。劇中で「あいつなんか会いたくもない」というのは案外ブレヒトのことかもしれない。
ジュディスをモデルにした9歳のアンナを演ずるのは、リーヴァ・クリマロフスキちゃん。可愛い事このうえない。ナチスから逃げるようにして、家族と一緒にスイス・フランス・イギリスと移り住む。大好きなお手伝いさんや、仲良しの友達、段々狭くなっていくけど楽しい我が家。そして何より大切にしてきたけど泣く泣く置いてきた「桃色のうさぎのぬいぐるみ」。その都度別れは寂しいけど前を向いて生きていく姿が、なんともいじらしい。
いつも対等に話してくれるお父さん。「何かやりたいことがあるのであれば、他人のためではなく、自分のことをやりなさい。」というアドバイスが素敵だ。
ヘイトスピーチが公然と行われる現在、子どもの目を通して差別の愚かしさを描き、歴史を繰り返さないよう静かに訴えた秀作だ。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。