岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

人の生き様をあぶり出す傑作拳闘映画

2020年12月21日

アンダードッグ

©2020「アンダードッグ」製作委員会

【出演】森山未來、北村匠海、勝地涼、瀧内公美、熊谷真実、水川あさみ、冨手麻妙、萩原みのり、風間杜夫、柄本明 ほか
【監督】武正晴

倒れても立ち上がろうとする人たちを見つめた繊細な脚本と揺るがない大胆な演出

 歌人であり、小説家であり、演劇人、映画監督として異才を放った寺山修司は、自らの本業を問われて、「僕の職業は寺山修司です」と答えた。しかし、少年時代、寺山はボクサーに憧れていた。中学生の頃、ボクシングジムに通い、一時は本気に志したという。

 1970年3月24日、人気漫画「あしたのジョー」で壮絶な試合後、リングに倒れたジョーのライバル力石徹の葬儀が講談社の講堂で執り行われた。その葬儀委員長を務めたのは寺山で、ボクサーへの道は断念したが、ボクシングへの情熱が消えることはなかった。その思いの結実したかたちが、1977年に公開された映画『ボクサー』である。

 ボクシングの何に人は惹きつけられるのだろうか?

 拳ひとつで殴り合う、一見単純に思える形態にも、スタイルやテクニックや試合における駆け引きが存在する。何より際立つのは、トレーニングによって、ストイックに自らを追い詰める姿だ。

 末永晃(森山未來)は日本チャンピオンをかけたタイトルマッチで、王座奪取を掴み損ねた35歳のロートルボクサー。サウナの雑用や、デリヘル嬢の送り迎えの運転手をして食いつなぎながら、夢=約束を捨てきれない=諦めきれないでいる。

 大村龍太(北村匠海)は、プロテストを直前に控えた新進のボクサー。深夜のロードワークの途中、末永のジムに入り込み、図々しくちょっかいをかける。対照的な夢に向かう殺気に溢れている。

 宮木瞬(勝地涼)は、売れないお笑い芸人。大物俳優の父親の傘の下、自虐的なすべり芸で宙ぶらりんなまま、勢いでボクサーに挑戦することになる。 『アンダードッグ』は、この3人に焦点を当て、それぞれが在るべき夢=幻想を掴もうと、足掻く姿を描いていく。ボクシングの孤独でありながら"動"的な世界。その対照として地を這うような"静"的な日常が淡々と、時に執拗に描かれる。

 主人公の3人とその周辺の人々の個性的な生き様をあぶり出す足立紳の脚本の力、あえて引いた普段と闘いの場の接近の圧を、自在に操る武正晴の演出が生み出す濃密な4時間36分に圧倒される。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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