戦争で生じたわだかまりを消し去るスポーツマンシップという魔法の力

　1945年イギリス、捕虜となったドイツ兵トラウトマン(デヴィッド・クロス)は、収容所でサッカーをしているところを地元チームの監督に見染められ、ゴールキーパーとして試合に起用したいと申し出を受ける。これは捕虜という身であれば、半ば強制的なものだが、チームにとっても残留をかけた苦肉の策という負い目があった。

　食料品店を営む監督の家には、ドイツ兵をよく思わない雰囲気があり、特に娘のマーガレット(フレイア・メーバー)は、トラウトマンを強く敵視するのだった。

　チーム内にも敵兵とのプレイにわだかまりがあったが、トラウトマンが試合で見せる直向きなプレイには、それを振り払う公明なスポーツマンシップの純真さに溢れていた。勝利を目指すチーム内には次第にトラウトマンを受け入れる一体感が生まれる。そして、頑なだったマーガレットにも変化が生まれる。

　『キーパー ある兵士の奇跡』は、ナチス兵からサッカーでイギリスの英雄になったバート・トラウトマンの実話に基づく物語である。 バート・トラウトマンは1923年ドイツ・ブレーメンに生まれた。第二次世界大戦では空軍の空挺兵として3年間従軍し、鉄十字勲章を含む５つの勲章を受けている。映画でもこの時の戦勲を揶揄される場面が登場する。大戦末期は西部戦線にいたことで、イギリス軍の捕虜となった。1000人いたトラウトマンの連隊で生き残ったのは僅かに90人だった。ドイツへの送還を拒否し、イギリスに残る選択をするのは自らの意志による。48年の保釈後は、収容所のあったランカシャー州に定住した。マーガレットと結婚したのは50年のことだった。

　地元のサッカークラブ・セント・へレンズ・タウンが、プロとしてのキャリアの始まりで、そこでの活躍によりフットボールリーグ(現在のプレミヤリーグ)から誘いを受け、マンチェスター・シティーに入団することになる。

　波乱に富んだ濃密な生き様は実にドラマチック。それ故、少し駆け足気味のダイジェストになるのは致し方ないが見所は満載だ。