岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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見せかけの好景気の実態を暴いた実在のジャーナリストの実話

2020年11月13日

赤い闇 スターリンの冷たい大地で

©FILM PRODUKCJA - PARKHURST - KINOROB - JONES BOY FILM - KRAKOW FESTIVAL OFFICE - STUDIO PRODUKCYJNE ORKA - KINO ŚWIAT - SILESIA FILM INSTITUTE IN KATOWICE

【出演】ジェームズ・ノートン、ヴァネッサ・カービー、ピーター・サースガード、ジョゼフ・マウル
【監督】アグニェシュカ・ホランド

権力者に対する盲目的な追従やマスコミの積極的迎合を、現代に対する警鐘や人類への戒めとして描いていく

 ロシアでは1917年10月、レーニン率いるボリシェビキの「十月革命」により、ソビエト政権が成立した。当初は「生産手段の社会的共有により、階級や搾取のない、万人が平等の社会」を目指していたが、スターリン時代になると他民族への侵略や国民への抑圧など、自由と民主主義を奪い、全面的な専制と独裁の体制を確立していった。

 本作は、世界恐慌からの経済的不況に苦しむ列強資本主義国に対し、社会主義による計画経済の優位性を示すために仕組まれた、見せかけの好景気の実態を暴いた実在のジャーナリスト、ガレス・ジョーンズの実話だ。

 その実態とは、1932年~33年にかけてウクライナを中心に起きた「ホロドモール」と呼ばれる人工的飢饉だ。農業国から工業国へ転換するための外貨獲得の目的で、穀倉地帯ウクライナで収穫される小麦を「全て人民のもの」との名目で収奪され、何百万人もの餓死者を出した。このことはソ連当局によってひた隠しにされていた。

 当時のモスクワ在住のジャーナリストの大部分は、薄々その実態は分かっていたが、社会主義に対する淡い期待とソ連をファシズムに対抗する希望と考え、厳しい監視下による恐怖心もあって、実情を伝えようとはしなかった。ジャーナリズムも、結果的にソ連の手先となってしまったのだ。

 それを、いかなる理想のもとでも犠牲者を出すのは悪であり、まずは実態を伝えるのがジャーナリズムであると考えたガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)は、単身ウクライナに乗り込む。そこで見た現実は想像をはるかに絶しており、人間がもたらした究極の地獄絵図であった。

 アグニェシュカ・ホランド監督は、権力者に対する盲目的な追従、マスコミによる忖度を含めた積極的迎合を、現代に対する警鐘や人類への戒めとして描いていく。権力者からの甘いささやきの嘘を見破り、フェイクニュースや陰謀論などを見極める。学習する映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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