岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品本気のしるし 劇場版 B! あまりに共感しすぎてゾッとする恋愛映画 2020年11月06日 本気のしるし 劇場版 ©星里もちる・小学館/メ~テレ 【出演】森崎ウィン、土村芳、宇野祥平、石橋けい、福永朱梨、忍成修吾、北村有起哉 【監督】深田晃司 30分テレビドラマ10話を一気見するつもりで観て欲しい 待っていました、深田晃司監督の新作!深田監督の作品は毎度クオリティの高いものばかりで、映画に対する姿勢も含めて今後の日本映画界の希望とすら思っている監督である。そして、今回の作品はテレビドラマを再編集した劇場版であり、上映時間232分に及ぶ大作だ。もとのテレビドラマが30分枠(実質23分)の10話分なので、この上映時間はテレビドラマ10話分の長さということになる。しかし、テレビドラマの劇場版だと思って観ると、その期待は裏切られることになる。すべてが映画的なのだ。いつもの深田晃司作品と全く変わらない。 今回の主人公は主体性なく、平凡に生きているサラリーマンの辻(森崎ウィン)。そんな彼が出会ったのは、自信がなく儚げな謎の女性、浮世(土村芳)。次々とトラブルを巻き起こす彼女との出会いが彼の生活を一変させる。傍から見ると隙だらけでありながら、本人にその自覚がない彼女を放っておけなくなる辻。彼女の借金を肩代わりしたり、殴られたり、人間関係がこじれたり…。ともにいれば地獄に堕ちていくことは分かっていても放っておけず、浮世の読めない行動に振り回される辻。浮世の行動がストーリーを二転三転させ、次にどうなるか分からない独特の緊迫感を生み出している。 映画には“もし、自分が登場人物だったら”と想像しながら観るという楽しみ方もある。しかし、本作でその楽しみ方をするとゾッとさせられる。なぜなら、もし私が辻の立場でも全く同じように浮世を放っておけなかっただろうから。つまり、浮世のような人が私の近くに現れたなら、辻の経験する地獄を自分も味わうことになるのだ。ここまでリンクする映画は本当に珍しい。そして、男性の多くは同じことを感じるのではないだろうか。毎度のことながら深田晃司監督は自身の内面を具象化したようなキャラクターを描いてくる。 そして、それは浮世というキャラクターが違和感なく成立し、説得力を持ってそこに存在しているからに他ならない。演出した深田晃司監督、あまりにハマり役である土村芳の演技力。悪意なく思わせぶりで嫌味にならないあざとさ。本当に凄かった。彼女だけでなく、周囲を固めるキャスト陣も忘れてはならない。そのリアルなこと。こちらの感情も大きく揺さぶられた。 気が付けば、上映時間など忘れてただただ没頭していた。先の読めない展開に加え、心地良い編集を完璧なまでに決まった構図も相まって終始スクリーンに釘付け。ぜひ上映時間232分と身構えず、30分テレビドラマ10話を一気見するつもりでご覧いただきたい。深田晃司監督の描く恋愛がそこにある。 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 100% 観たい! (12)検討する (0) 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 2024年04月12日 / コヴェナント/約束の救出 手に汗握るヒューマン・サスペンスの秀作 2024年04月12日 / コヴェナント/約束の救出 二つの救出劇が紡ぐ戦火の友情 2024年04月12日 / コヴェナント/約束の救出 危険を顧みない友情とスリリングな逃亡劇の戦争娯楽映画 more 2019年11月13日 / 静岡東宝会館(静岡県) 映画を観るなら七ぶらで…生粋の映画ファンが集う映画館 2022年04月13日 / 長崎セントラル劇場(長崎県) 父から引き継ぐ映画館で映画の灯を守り続ける。 2019年09月18日 / テアトル蒲田/蒲田宝塚 キネマの天地にある映画館は街の人々を笑顔にする more
30分テレビドラマ10話を一気見するつもりで観て欲しい
待っていました、深田晃司監督の新作!深田監督の作品は毎度クオリティの高いものばかりで、映画に対する姿勢も含めて今後の日本映画界の希望とすら思っている監督である。そして、今回の作品はテレビドラマを再編集した劇場版であり、上映時間232分に及ぶ大作だ。もとのテレビドラマが30分枠(実質23分)の10話分なので、この上映時間はテレビドラマ10話分の長さということになる。しかし、テレビドラマの劇場版だと思って観ると、その期待は裏切られることになる。すべてが映画的なのだ。いつもの深田晃司作品と全く変わらない。
今回の主人公は主体性なく、平凡に生きているサラリーマンの辻(森崎ウィン)。そんな彼が出会ったのは、自信がなく儚げな謎の女性、浮世(土村芳)。次々とトラブルを巻き起こす彼女との出会いが彼の生活を一変させる。傍から見ると隙だらけでありながら、本人にその自覚がない彼女を放っておけなくなる辻。彼女の借金を肩代わりしたり、殴られたり、人間関係がこじれたり…。ともにいれば地獄に堕ちていくことは分かっていても放っておけず、浮世の読めない行動に振り回される辻。浮世の行動がストーリーを二転三転させ、次にどうなるか分からない独特の緊迫感を生み出している。
映画には“もし、自分が登場人物だったら”と想像しながら観るという楽しみ方もある。しかし、本作でその楽しみ方をするとゾッとさせられる。なぜなら、もし私が辻の立場でも全く同じように浮世を放っておけなかっただろうから。つまり、浮世のような人が私の近くに現れたなら、辻の経験する地獄を自分も味わうことになるのだ。ここまでリンクする映画は本当に珍しい。そして、男性の多くは同じことを感じるのではないだろうか。毎度のことながら深田晃司監督は自身の内面を具象化したようなキャラクターを描いてくる。
そして、それは浮世というキャラクターが違和感なく成立し、説得力を持ってそこに存在しているからに他ならない。演出した深田晃司監督、あまりにハマり役である土村芳の演技力。悪意なく思わせぶりで嫌味にならないあざとさ。本当に凄かった。彼女だけでなく、周囲を固めるキャスト陣も忘れてはならない。そのリアルなこと。こちらの感情も大きく揺さぶられた。
気が付けば、上映時間など忘れてただただ没頭していた。先の読めない展開に加え、心地良い編集を完璧なまでに決まった構図も相まって終始スクリーンに釘付け。ぜひ上映時間232分と身構えず、30分テレビドラマ10話を一気見するつもりでご覧いただきたい。深田晃司監督の描く恋愛がそこにある。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。