岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

アメリカの作家で社会主義活動家の自伝的小説を原作に、現代に通じる社会派映画

2020年10月27日

マーティン・エデン

©2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

【出演】ルカ・マリネッリ、ジェシカ・クレッシー、デニーズ・サルディスコ、ヴィンチェンツォ・ネモラート、カルロ・チェッキ
【監督・脚本】ピエトロ・マルチェッロ

いつの時代でも成立するのだという空気感を醸し出す、ずっしりと骨のある秀作

 1991年のソ連崩壊後、社会主義陣営は後退を余儀なくされたが、一人勝ちと勘違したアメリカ型資本主義(新自由主義)により貧富の差は拡大・固定化された。しかし、直近のアメリカ大統領予備選で、社会主義的政策を掲げるバーニー・サンダース候補が健闘したのは記憶に新しい。

 本作は、およそ100年前に活躍したアメリカの作家で社会主義活動家ジャック・ロンドンの自伝的小説を原作に、それを20世紀のいつとも知れないイタリアの社会に置き換えて表現した、現代に通じる社会派映画である。

 物語の骨子は、無学で粗野な労働者階級(プロレタリア)の青年マーティン・エデン(ルカ・マリネッリ)が、資産家(ブルジョア)のお嬢様エレナ(ジェシカ・クレッシー)と出会って恋をし、彼女の影響から学問の大切さに気付き、己が才覚で大作家になっていくという筋立てだ。

 ボードレールを知らなかった彼が独力で勉学に励み努力して知識を得て、無謀にも文学の道を目指す。出版社に送っては返送される原稿の数。それにもめげず挑戦し続ける彼の姿は精悍で精気が漲っている。そして、奇跡的に採用され、作家の道を歩み始める。

 彼は知り合いのブリッセンデン(カルロ・チェッキ)の誘いで社会主義集会で演説する。「社会主義はいいとしても、組織を個人の上に乗せることは、権力者の交替にすぎない」。集会に集まった社会主義者たちからは罵倒され、逆に翌日の新聞では扇動者として批判される。今から思えば、その後のソ連型社会主義を見透かした優れた論評であったことが分かる。

 確固たる政治観と貧困をエネルギーに変えていくパワーは敬服するしかないが、成功を収めてからの彼は横暴でわがままで虚無感が漂う。結局どうなりたかったのか?

 差し挿まれる様々なモノクロのドキュメンタリーフィルムは、この物話がいつの時代でも成立するのだという空気感を醸し出す。ずっしりと骨のある秀作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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