フォトグラファー監督が切り取った真夏の夜の夢

　ジャズは19世紀末頃、アメリカ南部を中心にした地域から発生した音楽とされている。既成の様々な楽器を使用して、西洋音楽の技術や理論を踏襲しているが、根底にあるのはアフリカ系アメリカ人の独特のリズム感から生まれた民俗音楽の発展系である。初期にはマーチングバンドやダンス音楽の影響が強かったが、あくまでも表現方法は自由であった。やがて、ヨーロッパに広がり、20世紀後半には世界中で演奏されるようになった。

　『真夏の夜のジャズ』は、アメリカ・ロードアイランド州ニューポートで毎年8月に開催されるジャズフェスティバルの、1958年第5回の様子を記録したドキュメンタリーである。

　ニューポートはリゾート地として名高いが、ジャズフェスティバルの開催と同じくして、ヨットレースの最高峰である"アメリカズカップ"が行われていた。カメラは陽光溢れる海と、舞台の熱気を伝える。

　ジャズにはその自由な音楽性から、様々なジャンルが発生している。ブルース、ラグタイムといった技術的な区分けは可能だが、基本的には労働歌としての本質が演者から発散され、聴者もそれを生の魂の叫びとして受けとめる。

　セレニアス・モンクの独特の技法で奏でられるピアノ。アニータ・オデイのハスキーボイスが観客を一気に引き込む。

　ピアノ、クラリネット、サキソフォーン、トランペット、ドラム…そしてボイス。すべてがジャズ。

　中盤、舞台に上がるのはチャック・ベリー。ロックンロールの創始者として知られる彼のギターとボーカルは、ジャズの自由さを示すものでもある。そして代表曲「スウィート・リトル・シックスティーン」を披露し、会場は熱気に包まれる。

　夜の帷の降りたクライマックスは、ルイ・アームストロング。ブルースから"聖者の行進"まで、言葉は不要だ。

　締めくくりはマヘリア・ジャクソン。ゴスペルの圧倒的な歌唱は厳かな雰囲気を醸し出す。真夏の夜の"夢"のひと時を堪能できる音楽映画である。