岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

運命の女は転落のはじまり

2020年10月24日

本気のしるし 劇場版

©星里もちる・小学館/メ~テレ

【出演】森崎ウィン、土村芳、宇野祥平、石橋けい、福永朱梨、忍成修吾、北村有起哉
【監督】深田晃司

トリュフォーなら恐らく褒めたのでは、と感じた力作

 監督の深田晃司はこれまで『ほとりの朔子』、『よこがお』、『淵に立つ』などを作ってきたが、脚本がどれも弱く印象に乏しかった。独立系の監督として海外映画祭の受賞歴もあり、評価も高いようだが、個人的にはさほど感銘は受けなかった。しかし、本作は原作の力強さもあるのだろうが、話が面白く、主演男女優も適役で最後まで目が離せない。4時間近い上映時間だが長く感じることはないだろう。

 男(森崎ウィン)は中小商社のサラリーマンだが二股の恋愛中で人生をいい加減に生きている。ある日コンビニで出会った少し挙動不審、少しエキセントリックな女(土村芳)に人生を翻弄されていく、という筋。女は何か都合悪いとすぐにごめんなさいと謝るが、一向に態度を改めることはない。元夫やかつての愛人と思われるヤクザが次々と現れ、予期せぬ展開に主人公と同様、観客も振り回される。この女の人物造形がミステリアスで、いわばファム・ファタールの典型なのだが、これまであまり見たことのない設定だ。態度を常にはっきりさせるアメリカ映画にはまず出てこないタイプ。

 こうした危ない女には近づかないのが一番だが、男気というか正義感のある主人公は段々と惹かれていく。男女間の感情は第三者には分からないもので、理屈には合わない力学を描いている。恋愛映画の旗手と言われた亡くなったトリュフォーなら恐らく褒めたのでは、と感じた力作だ。その代表作の一つに『隣の女』があるが、その中のセリフ「一緒では苦しすぎるが、ひとりでは生きていけない」を思い出した。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

観てみたい

100%
  • 観たい! (3)
  • 検討する (0)

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

ページトップへ戻る