岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

『ノクターナル・アニマルズ』の冒頭に釘付け

2017年12月20日

ノクターナル・アニマルズ

©Universal Pictures

【出演】エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン、アーロン・テイラー=ジョンソン、アイラ・フィッシャー ほか
【監督・脚本】トム・フォード

 大きなスクリーンで観る映画は迫力が違う、とよく言われる。そんな時、多くの場合はSF映画や戦争映画などスペクタクルな活劇を想定している。確かにそういった映画は制作費もたっぷりかけ、最新の技術を駆使して大がかりに見せる、見せる。
 しかし、大きなスクリーンで観る価値のある映画はそればかりではない。いや、それ以上に価値があるのが美しい美術で彩られた映画。それは何も高級美術品を借りてきて画面を飾る、という意味ではなく、監督や美術スタッフの独創性やセンスが光り、映画に重要な意味を持たせる「映画美術」の事だ。
 『ノクターナル・アニマルズ』。夜行性動物たち、というタイトルのこの映画は、ジャンルとしてはミステリーになる。冒頭が凄かった。映画を見始めて40年以上になる私が、こんなもの見た事がない、と度肝を抜かれた。複数の超肥満体の女性たちが踊るのだ、全裸で!スローモーションで!その背景はビロードのような深紅で飾られ、その効果を更に高める。超肥満体の全裸の女性が凄いと言っているのではない(多少あるが)。それを映画の一部分として効果的に見せる演出が凄いのだ。その衝撃を大きなスクリーンで見る!これはスペクタクルな活劇以上のスペクタクルと言っていい。
 これに対をなすというのが正しいかどうか、もう一度目を奪われる美しいシーンが登場する。物語の半ば、荒野の中のゴミ焼却場。そこにある真っ赤なソファーに後ろ向きで横たわる真っ白な美少女の死体。冒頭とはまた別の意味で目が釘付けになる。これまた「映画美術」の成せるスペクタクルだ。
 この映画の美術は本物の物体としての美術品でも輝きを放つ。主人公がアートギャラリーの経営者なので、必然的に現代美術の作品が数々出て来る。そんな「映画の中にいる美術作品」を大きなスクリーンで見る。これも眼福。
 そして衣装。実は監督のトム・フォードは自身のブランドを持つデザイナーの顔を持つ人でもある。衣装担当者は別人が務めるが、オリジナルのデザインを含め、監督のセンスや指示が反映されているのもまた必然だろう。
 小さなサイズで見る映画でも物語はわかる。だけど監督たちが丹精込めて画面の隅々にまで神経を行き届かせた力を汲み取る事は難しい。ハッとさせられる映画美術こそ大きなスクリーンで。そしてそれは勿論スペクタクルなSF映画にも通じる話で、『ブレードランナー2049』の凄さといったら……。でもそれはまた別の話。

『ノクターナル・アニマルズ』は大垣コロナシネマワールドで2/3(土)より公開予定。

語り手:橘 真一

元映画ライター、前映画中心の古書店経営、現某映画の会代表。色々とユニークに映画と関わってきている映画好き。「考えるな、感じろ」は好きだが「感じろ、その上で考えろ」はもっと好き。

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語り手:橘 真一

元映画ライター、前映画中心の古書店経営、現某映画の会代表。色々とユニークに映画と関わってきている映画好き。「考えるな、感じろ」は好きだが「感じろ、その上で考えろ」はもっと好き。

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