岐阜新聞 映画部

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国家の罪を告発した女性諜報員の格闘の実話

2020年09月21日

オフィシャル・シークレット

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【出演】キーラ・ナイトレイ、マット・スミス、マシュー・グード、レイフ・ファインズ
【監督】ギャヴィン・フッド

国家の犯罪は普通のデスクワークから生まれてしまう

 2001年9月11日、テレビのニュースは、ニューヨークの国際貿易センタービルに衝突する旅客機の映像を映していた。現実を疑う光景をただ漠然と見つめていた記憶は、今も消えることはない。

 この事件が米国を標的とした同時多発テロであり、米国政府は犯人のあぶり出しに奔走し、その標的をイラクのフセイン政権に向ける。国連を中心にした諸外国の疑心暗鬼の反応に、米国政府はフセイン政権が大量破壊兵器を開発、保有しているという想定のもと、テロの首謀者であるかのような情報を拡散し、攻撃対象に名指しした上、国際的な世論の誘導を試みた。そして、同盟国である英国のブレア政府は、米国と歩調を合わせる方向に動き出した。

 英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)に勤務するキャサリン(キーラ・ナイトレイ)は、米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)からのメールを受け取る。そこにはイラクを攻撃するための、違法な工作活動を促す内容が記されていた。

 昨年公開された『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(ロブ・ライナー監督)は、イラク戦争開戦の口実であった大量破壊兵器の存在を疑った地方新聞の記者たちの奮闘を描いていた。その内容からも分かるように、開戦への大義名分は早くから疑われていたことになる。やはり、昨年公開された『バイス』(アダム・マッケイ監督)は、政府内部、ブッシュ大統領のもと、その方向性の舵を握っていた副大統領のチェイニーを中心に、戦争に突き進んだ内情を生々しく描いていた。

 『オフィシャル・シークレット』は、これまでは隠れた存在であった、内部告発側であるごく普通の女性キャサリンを主人公にしている。国家が国連の安保理のメンバーを盗聴する犯罪行為を彼女の正義感は許すことができず、マスコミへの告発という手段に向かわせる。諜報機関公務、故に発生する秘密保持という義務。契約をやぶる罪。国家の罪。その比重。キャサリンの裁判には理不尽な権力が介入してくる。この痛みを思えば、国の傘の下にあれば、悪事は罪に問われない。その事実にあらためて憤りを感じる。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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