岐阜新聞 映画部

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現代版「怒りの葡萄」ともいえる逸品

2020年09月11日

パブリック 図書館の奇跡

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【出演】アレック・ボールドウィン、テイラー・シリング、クリスチャン・スレイター、ジェフリー・ライト、ジェナ・マローン、マイケル・K・ウィリアムズ、チェ“ライムフェスト”スミス
【製作・脚本・監督・主演】エミリオ・エステベス

図書館は、誰にでも門戸を開いている学校なのだ

 本作の主人公で図書館員のスチュアート(エミリオ・エステベス)は、ホームレスと一緒に図書館に立てこもる理由をマスコミに問われ、ある有名な小説の一節を朗読する。

 「人々の目には失望の色があり、腹を減らした人たちの目には湧きあがる怒りがある。人々の魂のなかに怒りの葡萄が実りはじめ、それが次第に大きくなっていく―収穫の時を待ちつつ」

 スタインベックの「怒りの葡萄」だが、レポーターには意味が分からない。それに対して、図書館員のマイラ(ジェナ・マローン)が「十代の必読書よ」と教える。マスコミの無教養ぶりを端的に表す痛快なシーンだ。

 そもそも「怒りの葡萄」は、1939年に出版された時、保守層から「内容が社会主義的」と攻撃され図書館から排斥された歴史がある。それをきっかけに誕生したのが「図書館の権利宣言」なのだ。

 様々な理由からホームレスになってしまった人たち。彼らは「怒りの葡萄」の、行き場を失った農民に重なる。スチュアートは、大寒波が襲来しても緊急シェルターに満員で入れない常連のホームレスから「図書館を占拠する」と告げられる。

 日頃から彼らと向き合っているスチュアートにとって、命の危険にさらされている人たちを前に、杓子定規に拒否する選択肢はない。建物のなかに入れ、排除されぬようバリケードを作るのだ。

 ホームレスとまともに向き合おうとしない警察・政治家・マスコミ。それに対して「図書館は民主主義の最後の砦なんだ」というセリフが頼もしく聞こえる。

 スチュアートの秘密は映画の途中で明かされるが、彼が図書館によって助けられたことだけは確かだ。図書館には生き抜くための材料がいっぱい詰まっており、誰にでも門戸を開いている学校なのだ。

 現代版「怒りの葡萄」ともいえる逸品。主演も務めるエステベス監督は、深刻な社会問題を、ユーモラスなヒューマンドラマに仕上げた。ラストの描き方は爽快だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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