岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

権威の象徴 教会を告発した闘いの実話

2020年09月14日

グレース・オブ・ゴッド 告発の時

©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA– PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

【出演】メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー、ジョジアーヌ・バラスコ、エレーヌ・ヴァンサン
【監督・脚本】フランソワ・オゾン

鬼才フランソワ・オゾン監督の円熟

 リヨンに住むアレクサンドル(メルビン・プポー)は、妻と子どもと共に礼拝に参列している。あたりは荘厳な緊張感に包まれているが、突然いたたまれなくなり、家族を引き連れて教会をあとにする。

 幼い頃に教えを乞うたブレナ神父が、今も現職にあり、子どもたちに聖書を教えていることを知ったアレクサンドルは、永く封印していた負の記憶を妻に告白し、年長の子どもたちにも説明し、事実を共有することで、これから起こりうる難題に立ち向かう決意をする。

 ブレナ神父は、信者家庭の少年たちに性的暴力を働いていた。この事実はいくつかの利害のもと、公になることはなかった。親への告白すら、世間の目や教会の権威を気にするあまり、子どもの心のキズには目をつぶってしまう風潮があった。また、教会に直訴したにも関わらず、それが公になることはなく、ブレナ神父は教区を変えることで記憶を薄めるという姑息な手段が取られた。そして、その隠蔽の構図が次第に明らかになる。

 『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は、神父による児童への性的暴力事件 、現在も係争中の“ブレナ神父事件"という実話をもとにしている。

 勇気あるアレクサンドルの告発は、時効という法律的な障害や、必ずしも真実を広く世間に晒すことを嫌う周辺の人々の拒絶にあい、順調には進展を見ない。中でも教会の反応には誠意が感じられず、アレクサンドルの冷静な感情も怒りに負けそうになるのだが、地道な活動は、同じ被害にあった男たちが重い口を開けてくれることで、少しずつ動き出すことになる。

 監督のフランソワ・オゾンは、かつてはスキャンダラスでスタイリッシュという印象があったが、本作では落ち着いた重厚さが際立つ。特に、暗く重くなる話を、中心となる主要人物をリレーのように繋げることで、新たな視点を導入し、渋滞に陥る物語を巧みにコントロールしている。

 権威の象徴、故にプライドの維持にしがみつこうとする教会。小児愛を認める神父を生殺しにした責任は重い。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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