岐阜新聞 映画部

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聖職者による権威を笠に着た犯罪の異常性を告発した、オゾン監督の力作

2020年09月14日

グレース・オブ・ゴッド 告発の時

©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA– PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

【出演】メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー、ジョジアーヌ・バラスコ、エレーヌ・ヴァンサン
【監督・脚本】フランソワ・オゾン

立場も境遇も違う3人の告発者にそれぞれの役割を与え、リレー方式で繋げていく

 生涯独身が掟であるカトリック神父の主に、少年に対する性的虐待問題がアメリカで発覚したのは2002年。長きに渡って隠蔽されてきたこのおぞましい問題は、これ以降堰を切ったように世界各国のカトリック教会で発覚し告発された。

 本作は、2016年に捜査が始まったフランスの「プレナ神父事件」を、いつものスタイリッシュで挑発的な作風を封印したフランソワ・オゾン監督による、怒りと悲しみ、そして一歩踏み出す勇気を讃えたヒューマンドラマだ。

 プレナ神父は1971年から91年にかけて、分かっているだけでも80人以上の少年に対して性的虐待を行ってきた。これは氷山の一角で、おそらく記憶を消したい被害者が数多くいるものと推察できる。そのプレナ神父も、実は性的虐待を受けていた。この問題はカトリック教会に古くから蔓延る悪しき因習であり、公然の秘密だったのだろう。

 本人もあっさりと認めて、形ばかりの謝罪をする。教会は放置していたわけではないが、罪に問うことなく、配置転換で誤魔化していく。追及されれば枢機卿は「神の恩恵により、ほぼすべて時効です」と開き直る。キリスト教は「許しの宗教」と言われるが、都合よく解釈しているとしか思えない。

 オゾン監督は、立場も境遇も違う3人の告発者にそれぞれの役割を与え、リレー方式でバトンを繋げていくという語り口で、この映画を構成する。

 敬虔なカトリックで家族を大切にする1人目のアレクサンドルには、それでも信じようとする真摯な性格で沈黙を破り教会を訴える役目。事件の概要を担う。無神論者になった2人目のフランソワには、猪突猛進な性格でマスメディアに訴える役目。物語は一気に進行していく。てんかん持ちの3人目のエマニュエルには、PTSDに苦しんできた過去と法廷に訴える役目。現在進行形の今に繋げる。

 聖職者による権威を笠に着た犯罪。その異常性を告発したオゾン監督の力作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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