岐阜新聞 映画部

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社会派映画の流れを、唯一正統に受け継ぐ存在と言ってもいい名匠・神山征二郎監督

2020年09月06日

時の行路

©「時の行路」製作委員会

【出演】石黒賢、中山忍、松尾潤、村田さくら、渡辺大、安藤一夫、綿引勝彦、川上麻衣子、日色ともゑ(ナレーション)
【監督】神山征二郎

主人公のジレンマに鋭く突っ込んでいくところはさすが

 第41回CINEX映画塾にて『時の行路』を観る。ゲストは、独立プロを中心とした社会派映画の流れを、唯一正統に受け継ぐ存在と言ってもいい名匠・神山征二郎監督。岐阜市西郷のご出身で御年79歳。トークでは映画のことはもちろん、岐阜の地元ネタから地歌舞伎自慢、ご自身の名前の由来まで盛りだくさんの内容だった。

 映画は、八戸に家族を残し三島のトラックメーカーで派遣工として働く五味洋介(石黒賢)を主人公に、家族への愛と仲間との連帯を、通俗的にもならずプロパガンダにも陥らず、バランスよく描かれていた。

 正社員になれるかもしれないと告げられ将来の夢を抱く五味。ところが2008年秋、リーマンショックのあおりを受け、非正規社員は突然一方的に解雇を言い渡される。会社側は、こういう時のための雇用の調整弁なのだからと容赦はない。

 社会の理不尽に立ち向かうには、団結するしかない。一人の力は弱くても、みんなが集まれば象も倒せる!シンプルだけど力強いメッセージ。神山映画らしい連帯することへの賛歌は、いささかもぶれない。

 しかし、組合活動に重きを置けば置くほど、故郷の家族とのふれあいは少なくなる。息子は大学進学を断念し、奥さんはガンになるも洋介に気を使い、手術のことさえ知らせない。活動家にありがちな、人のために力を割けど、支えてくれている家族のことは疎かになる。こういったジレンマに鋭く突っ込んでいくところはさすがだ。正解は無い。

 バブル崩壊後の小泉構造改革路線以降、正規雇用は減り続けている。ここ20年では、先進国の賃金のなかで日本だけが減っており、平均賃金もOECD加盟国中20位。有期雇用や派遣という企業に都合のいい労働形態は、雇用を不安定化させる。

 映画のラストは一見救いようがなく見えるが、私は毅然と前を向く五味の表情の中に、生きていかねばならない、負けないぞという力強い意志を感じた。いい映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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